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にわかに進む「週休3日制」議論が空虚な“改革ごっこ”に陥りそうだと思うワケスローガンには要注意(3/5 ページ)

» 2021年04月28日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 本来は、日本の雇用システムの特徴を「メンバーシップ型」、欧米の特徴を「ジョブ型」と呼んでいました。その前提からすると、例えば“日本版ジョブ型雇用”のような表現には違和感があります。“日本版洋服”というと何か引っ掛かりを覚えるのと同じで、言葉自体が矛盾をはらんでいるのです。

 また、ちまたにあふれている情報を眺めてみると、「ジョブ型」を職務固定という意味で用いたり、専門特化という意味で用いたり、成果連動という意味で用いたりと、さまざまなケースが見られます。そのため、あたかも職務固定したり、専門特化したり、成果連動していれば“欧米型”になるかのような誤解を招いてしまっています。

 それ以上に問題なのは、中身はこれまで日本で用いられてきたシステムと実質的に変わらないのに、言葉を「ジョブ型」に置き換えただけのものがたくさんある点です。むしろ、そのケースの方が多いように思います。

それ、本当に「ジョブ型」なの?

 例えば職務固定だけであれば、多くの企業で既に導入している職務限定正社員と変わりません。専門特化であれば、エキスパート職のような区分が既にありますし、成果連動させるだけであれば成果主義と変わりません。それらは旧来の「メンバーシップ型」の中で既に運用されてきたものです。「これからわが社はジョブ型に転換する!」と宣言しても、その多くは過去の取り組みの焼き直しである可能性が高いということです。

 「メンバーシップ型」とは「就社型」と言い換えても良いと思います。企業が強い人事権を持ち、職務も勤務地も強制的に変更できるからです。つまり、仮に職務限定正社員として働いていても、会社都合で他の職務に変更させることができてしまいます。

 しかし、本来の意味での「ジョブ型」であれば、職務と契約しているので、会社が働き手の意思に反して勝手に職務を変更させることはできません。「ジョブ型」は就社ではなく、文字通り「就職型」のシステムです。もし会社が人事権を用いて職務変更させられるのであれば、それはこれまで通り「メンバーシップ型」なのです。

 「ジョブ型」という言葉が流行るとともに、職務記述書(job description)という言葉もよく目にするようになりました。しかし、職務記述書を書いたところで、会社側の人事権行使によって一方的に変更できるものであれば、やはり実態は「メンバーシップ型」のままで変わりません。

 実態はほとんど変わっていないのに、見た目だけ欧米風にして何かが変わったように見せかけることは無意味です。また、「同一労働同一賃金」と同じく、そもそも「メンバーシップ型」をやめて欧米のような「ジョブ型」になれば良いといえるほど単純なものでもないはずです。

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