マーケティング・シンカ論

健康なTHE MODEL型組織、どう作る? 「戦略・人材・オペレーション」の基礎“顧客との付き合い方”のデザイン法(4)(1/2 ページ)

» 2021年05月27日 07時00分 公開
画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 これまでの記事では、“THE MODEL型組織”の概念、その中でも比較的新しいカスタマーサクセスやインサイドセールス組織の立ち上げについて触れてきた。

 今回は個別組織ではなくTHE MODEL型組織全体を俯瞰し、立ち上げ・運営の中で重要な点を「戦略・人材・オペレーション」の3つの観点から考えていきたい。

【戦略】「売れることが正義」からの脱却

 戦略と一口に言っても組織や採用、財務、デジタル化などさまざまなトピックがあるが、最も重要なのは間違いなく「顧客戦略」だ。

 サブスクリプション型の事業においては「当社にとっての顧客は誰か」が定まっているかどうかが事業の成否を分ける。

 売り切り型事業モデルにおいては「売れた顧客こそが正しい顧客だ」とする風潮があった。売れた後にもしミスマッチが発覚したとしても企業が被る不利益が少ないため、多少のズレを承知の上で新規売り上げを重視する傾向は根強い。

 しかし、同じ感覚でサブスクリプション型事業を運営していると容易に事業が破綻する。それはなぜか。

 サブスクリプション型は、長期間にわたって顧客に利用いただくことで利益が出るモデルだ。仮に営業フェーズで売れたとしてもニーズのミスマッチがあれば短期間での解約につながる。初期費用や月の課金額がそこまで大きくないこの事業モデルにおいては、それは赤字を意味するのだ。

 では、長期的に顧客に利用いただくにはどうすればよいのか? それには自社サービスが顧客の役に立っていること、つまり「誰のどんな課題を解決するのか」が定義されている必要がある。それは裏を返せば、「役に立てない顧客や課題」を定義することでもある。

 その他の戦略よりも顧客戦略が重要なのは、顧客はTHE MODEL型の全組織に共通して関わるからだ。マーケティングからカスタマーサクセスまでの各フェーズにおいてこの顧客の認識がずれていては、顧客が「これは役立つ」と感じる体験を提供することは不可能だろう。

 また各組織でどのような取り組みを行うかや、求める人材要件なども「誰にどんな体験を提供するのか」という考えがスタート地点になるので、ここの軸を定めることが非常に重要だ。

 正しい顧客を定めるための具体的な取り組みとして、各組織のリーダーが集まってカスタマージャーニーを作ったり定期的に顧客像を擦り合わせたり、顧客のセグメンテーションを確認したりといったことが挙げられる。サービスを提供してはいけない顧客から考えることも、有効な手段だ。

【人材】営業か、カスタマーサクセスか

 次は人材の配置、すなわちどういった手順で事業・組織を拡大していくかだ。このトピックで必ず議論になるのが、カスタマーサクセス強化(既存顧客のリテンション)から始めるか、営業強化(新規獲得)から始めるかという点だ。

 事業フェーズによっても異なるため、一概に正解があるわけではない。カスタマーサクセスが手薄な状態は「穴の空いたバケツ」と称され、そのままではいくら新規の顧客を入れても成長が見込めない。一方で、新規獲得が新たに生まれない状態では支援する既存顧客が増えないため試行錯誤もできないだろう。

 そういった前提を踏まえつつ、どこから着手するかを考える上での観点を2つご紹介したい。

 1つは着手してから成果が出るまでの期間だ。カスタマーサクセスはマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスなど他の組織と比べても成果が出るまでに時間がかかる。顧客の更新が最終的な成否の判断になるため、取り組みを始めてもその結果が分かるのは1年後ということも珍しくない。

 時間がかかる取り組みは、他よりも早めに着手しないと手遅れになる可能性が高いので注意が必要だ。

 2つ目は戦略パートで触れた「正しい顧客の定義」が全ての起点になるということだ。正しい顧客の土壌がない限り、THE MODELの方向性を描けないので、もしその定義が不十分であればその理解を深められるフェーズであるカスタマーサクセスを起点に強化すると良いだろう。

 最終的には各事業の現状と照らし合わせての判断になるが、上記の観点も踏まえると、顧客の定義を担いうるカスタマーサクセスを起点に組織を強化していくのは一つのセオリーだ。当社でも、紹介した双方の観点からまずはカスタマーサクセスの強化に着手し、そこで得られた顧客像や成功コンテンツを営業フェーズの拡大に活用するという戦略を選択している。

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