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リストラしたい会社と、しがみつきたい社員 双方を苦しめる「成功体験」の正体パナソニック報道で話題(4/5 ページ)

» 2021年05月27日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

「正社員」も整理の対象に

 以前「『週休3日』『副業容認』は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ 」という記事でも指摘したように、会社は今まで以上に先が読みづらい市場環境の中で戦わなければならなくなりました。会社側としては、市場の変化に合わせて、柔軟に人員体制も変化させていく必要があります。

 そのため、正社員と呼ばれる人員ばかりでなく、一定割合を非正規と呼ばれる働き方にしておくことで、弾力的に人員を増減できる体制を組んできました。いざというときは、余剰人員となる有期雇用者の契約を「延長」せずに「終了」して人員体制をスリム化することができます。

 しかし、余剰人員をさらに減らさなければならなかったり、市場変化や法改正などに応じて体制を再構築したりといったことのために、正社員と呼ばれる人員も整理しなければならないこともあります。そこで、解雇や早期退職の募集といった人員削減策をとることになります。ただ、日本には欧州のように相応の金銭を支払うことで解雇できる仕組みがありません。そのため、正社員を減らすためには早期退職制度などを用いることになります。

「成功体験」がせめぎ合いを生む

 バブル崩壊後の景気後退期やリーマンショック、東日本大震災など、数々の試練において、人員削減策は会社生き残りの有効な手段として機能してきました。その成功体験は、今も色濃く残っているといえます。

 一方、社員は社員で、人員削減策が実施されても会社に残る選択をする人が少なくありません。退職した社員が苦労して次の仕事を探しているのを尻目に、ジレンマに耐えながら安定した収入を獲得し続けた人がいたり、ミスマッチ状態でも仕事をやり抜き、結果的に昇進した人がいるなど、苦しみながらも会社に残り続けることで得られた成功体験の記憶が残っています。

 人員削減策を実施する会社とそれでも会社に残る社員。双方が成功体験を有している限り、“辞めさせたい会社”と“残り続ける社員”とのせめぎ合いは、今後も繰り返されることになるのだと思います。

 そのせめぎ合いは、会社側も社員側も必死に生き残ろうとする中で生じるものだけに、一概に責められるものではありません。ただ、変化し続けている社会環境の中で、同じようなせめぎ合いを繰り返しているだけでは、会社も社員も共倒れになってしまう懸念があります。

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