フジテレビの女子アナによるステマ疑惑が金銭トラブルに発展した理由専門家のイロメガネ(4/5 ページ)

» 2021年05月30日 07時00分 公開
[中嶋よしふみITmedia]

ステマの放置は反社につながる

 公共の電波で得た知名度によるお小遣い稼ぎが許されないことはもちろん、今回のトラブルの相手がもし暴力団や反社会的な組織だったらどうなっていたか? と考えれば、コンプライアンスやガバナンスの観点から極めて深刻な問題であることが分かる。

 2019年に大問題となった吉本興業の闇営業問題では、一部の所属芸人が反社組織のイベントに参加していた。これは芸人が事務所の与り知らないところで勝手に活動をしていて、それを事務所が放置・黙認していたこと、つまり管理不足が原因だ(記事参照)。これは今回のトラブルも同じ構図で、女子アナの「闇営業」をフジテレビが見逃していたような状況だ。

 他社の社員ではなく、フジテレビの他の社員でもなく、局の顔である女子アナに宣伝の依頼が来た理由は、フジテレビの影響力を当て込んでいるからだ。 

 わずか30万円分の無償サービスでフジテレビの女子アナがSNSアカウントに出てくれるなら、依頼したい企業はいくらでもある。これは広告収入を売り上げの柱とするテレビ局にとって自明の話だ。フジテレビはそういった誘惑があることを知りながら、女子アナを処分する事態になるまで何も対策を打っていなかったのか? ということになる。

 今回は相手方が普通のエステサロンで、トラブルの内容も「写真の削除を要求するなら客として代金をちゃんと払ってほしい」という正当な要求なので、まともに対処すればこれ以上大きな問題にはならないだろう。しかし、もし何十万円、何百万円もの無償サービスを女子アナが受けた後に、「ウチの会社が関わるイベントで司会をしてくれ」と反社会的な組織が関わる仕事を依頼された時に、果たして断ることはできるのか?

 このレベルまで発展すればステマや金銭トラブルどころの話ではなく、もはや脅迫だ。そして金品の提供から脅迫に発展することは有名人が巻き込まれる典型的なトラブルでもある。そして問題が表沙汰になれば、反社会的組織とズブズブの関係……と、とんでもないスキャンダルにまで発展してしまう。フジテレビの対応の甘さ・遅さを見ていると、このレベルの問題が起きてもまったくおかしくはない。

 ステマ疑惑が多数のメディアで報じられたことから社内で大騒ぎになっていたと思われるが、決して皮肉ではなく、むしろ小さい問題で済んでよかった、相手が反社じゃなくて助かったと言いたくなるような状況だ。

 複数の女子アナが大量の無償サービスを受けていたこと、他社のSNSアカウントに堂々と出演していたことを改めて考えると、ステマやSNSの使い方に限らず、就業規則は周知徹底されているのか? 何が問題か社員も経営陣も理解しているのか? そして社員の行動規定として多くの企業が定めている「社会通念から外れる接待の禁止」など、報道機関として他社よりも強く求められるコンプライアンスが適正になされているのか、あらゆる面で疑問と言わざるを得ない。

 今回の問題の本質はステマではない。報道機関の社員が多額の接待を受けていたこと、そこから深刻な問題が起きる可能性があったこと、そしてそれをフジテレビが防げなかったこと、さらには週刊誌で表沙汰になるまで社内で指摘もされず、経営陣は問題を認識すらしていなかったことだ。決して「芸能ネタ」として消費していいような内容ではない。

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