実はミスターランクルみたいな名物エンジニアがいるのだが、彼と話していると、頻繁に出てくる言葉がある。それは「必ず帰って来られる」という言葉だ。ほんのわずかな油断が絶望的な状況を招くかもしれない「道」で、何があっても絶対帰って来られる性能を最大限に追求したクルマがランクルだ。彼はこう言う。
「モデルチェンジする時、旧型で走れた場所が新型では走れないということは絶対にあってはいけないんです」
村落の食料や生活必需品の輸送ルートが、ランクルにしか通れない「道」だけで結ばれている場合がある。そのクルマを買い換えた時、旧型でできたからと、いつものつもりで走って、走破できないとドライバーは死んでしまうかもしれない。だから絶対に限界性能は下げてはいけないと彼は強く訴えた。そのミスターランクルは、昨年定年を迎えて後進に道を譲った。図らずも100年に一度の改革のタイミングにである。
今回の新型はさぞや電動化されることだろうと筆者は思っていた。成り立ちからいって燃費の厳しいクルマである。そしておそらく製品ライフも長い。それをコンベンショナルなシステムだけでデビューさせるとは思っていなかった。しかし、彼の言葉を思い出すと、茶色く濁った泥水に車体の半分を浸しながら走る場所で、果たして動力用バッテリーは平気なのだろうか? あるいは崖沿いの崩れかけた隘路(あいろ)で、バッテリーの搭載によって車両重量が極端に増えたら果たして大丈夫なのか?
そういう限界的ニーズに真摯(しんし)に応えるとしたら、それはやはりコンベンショナルなやり方でいくしかないだろう。もちろん気候変動という社会課題は厳然と存在するので、どこかのタイミングで電動化モデルも登場するのかもしれないが、少なくとも世界の中で最も過酷な道が求めるのは今の技術でできる電動化モデルではない。何が通れて、何が通れないかを決めるのは「道」なのだ。
余談だが、筆者がすでに何度か書いている通り、10年前、つまりトヨタの製品クオリティがおかしくなっていた時代も、ランクルだけは例外だった。それは絶対に性能をトレードオフできないというランクルの特殊事情があったからだと思う。
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