クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型86とBRZ スポーツカービジネスの最新トレンド池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

» 2021年07月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

FRモデルの開発経験が足りなかったスバル

 大まかにいって、商品企画はトヨタが、開発はスバルが受け持ったのだが、実は初代の開発当時、スバルにはFRモデルの開発経験が足りなかった。スバルはAWDを得意としているが、シャシーを見れば一目瞭然、登録車はFFベースのシャシーのリアを駆動できるようにしたものであった。軽はといえばRRで、要するにスバルFF1000を遠祖とする水平対向用FFシャシーと、スバル360を遠祖とするRRシャシーの2種類である。かつて最もコンベンショナルな形式であったFRシャシーがラインアップに存在しなかったのである。それは、スバルはそれだけ個性的なクルマ作りをしてきたということでもある。

(トヨタ/スバル提供)

 FRシャシーの経験不足によって生じた問題は、リアセクションの剛性不足である。フロントにエンジンを積み、プロペラシャフトを介して、後輪だけで駆動するにはボディ前後のねじれ剛性はどうしたって生命線になってくる。

 今回スバルのエンジニアにその辺りを聞いてみたところ、初代は初代で最大限ボディ剛性も頑張ったが、やはり床板だけで剛性を保つのは難しかったと、本音を語ってくれた。

 実際コンプリートカーを作るスペシャルショップの言によれば、初代を本気でチューンしようとするなら、ボディのリアセクションを丸ごと作り直さなくてはならない。という声も聞こえてきていたほどだ。

 当時のメーカー資料では、さもリヤ剛性を頑張ったようなことを書いてあり、筆者がリヤ剛性が足りないと書いたことに対して、メーカーの言をそのまま引用して反論する人もいた。しかしながら、メーカー自身にはその悪癖の自覚はあったから、後にビッグマイナーチェンジで、リヤインナーフェンダーの板厚を上げてまで、剛性向上を図ってきたり、デフマウントのボルトを改良して取り付け剛性を改善したりしたのだが、やはり弥縫策(びほうさく)に過ぎなかった。結果論でいえば、全面刷新が可能になった今回の新型で50%向上したねじり剛性が何よりも雄弁に旧型の力量を証明している。

 初代でも、後期型ではだいぶマシになり、お勧めはしないまでも購入を止めなければならないほどでは無くなったのだが、初期型はどうしてもというのではない限り止めた方がいいものだったのである。

 具体的に乗っていてどうかと問われれば、細かくはいろいろあるのだが、特に先に挙げた剛性不足と、それに付随してタイヤの位置決めが厳しかったと思う。これについてはフロントストラットの横曲げ剛性が60%向上という数値からも見て取れる。リヤについては言及が無いが、フロントだけ剛性を上げてハイ終わりということでバランスが取れるはずもなく、リヤも向上しているはずである。

 要するに旧型では剛性が不足しており、その結果アシがキレイに動かなかった。ドタドタとした乗り心地は、単純に快適性だけの問題ではなく、クルマ全体のリニアな動きにもマイナスとなっていた。デフのマウントからプロペラシャフトの剛性まで、いろんな部分がガッチリできていなかった。

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