さて、そこで想像していただきたい。このような問題が発覚した際に、組織として「人間的に難ありでも結果を出す人間」に正しい裁きを下すことができるだろうか。
10人いれば10人が「どんなに仕事ができても、組織のガバナンスや被害者救済のためにも、それなりのペナルティーを与えるのが当たり前だ」と即答するだろうが、言うは易しでこれを現実に実行するのはかなり難しい。
分かりやすいのが、ウーバーイーツで日本でもお馴染みの「ウーバー・テクノロジーズ社」だ。
17年、同社で働いていたスーザン・ファウラーさんが上司からのセクハラと、その相談を潰して逆に解雇をちらつかせた人事部の対応を告発して大きな話題になった。「セクハラは即解雇」と日本よりも厳しいスタンスで臨む米企業で、なぜこんなクサイものにフタといった対応になったのかというと、この上司が「人間的に難ありでも結果を出す人間」だったからだ。
ファウラーさんは働き始めてすぐに性的な関係を迫ってきたこの上司について人事部に通報した。しかし、耳を疑うような回答が返ってきた。会社に貢献するハイパフォーマーで、かつ初犯なので騒ぎにするなと警告され、あなたが異動して距離をとるか、現状に耐えるか、という選択肢を示されたのだ。
しかし、初犯というのは真っ赤なうそで、この上司はセクハラ常習犯だった。他にも同様の被害を受けた女性従業員が複数いたが、被害の声が上がるたびに人事部がモミ消してきたのである。そこで、ファウラーさんは自ら会社を辞めて告発に踏み切ったというわけだ。
ここまで言えばもうお分かりだろう。「人間的に難ありでも結果を出す人間」が問題を起こした際、他の人間と同じように処分をするべきだという建前はあるが、組織としては、貢献度が大きければ大きいほど、問題をモミ消す力学が働いてしまうものなのだ。
もちろん、こんなモラルの欠いた行為をしたことが世間にバレれば大炎上することは言うまでもない。ファウラーさんの告発によって、ウーバーは大きな批判を浴びCEOが謝罪に追い込まれた。また、この問題にかかわった20人以上が解雇され、社内の人権意識を根本から改めるような改革を余儀なくされた。
「人間的に難ありでも結果を出す人間」がもたらす目先の利益を優先して、問題行動をかばい続けると、組織に取り返しのつかないダメージをもたらすのだ。
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