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3年間で大改革の「タイガー」、きっかけは元ソニーの女性役員家電メーカー進化論(3/7 ページ)

» 2021年10月13日 07時00分 公開

 浅見氏が次に手掛けたのは組織の改善だ。それまでタイガーにはなかった事業戦略やマーケティングの部署を作り、タイガーの魅力をお客様に届けられる仕組みを作っていった。

 「驚くべきことですが、それまで当社にはマーケティングを専門にしている部署がありませんでした。そこで私の下に戦略マーケティング、広報宣伝、商品企画、デザインの部署を置く組織体制を作ってくれました。

 こうすれば、私の組織のなかでストーリーを共有できます。業務が一気通貫でできますし、『分からなくなったら私に相談して』と言えるので、改善をスピーディに進めることができました」(浅見氏)

 さらに浅見氏は製品づくりの根底にある考え方も見直していく。製品の機能だけでなく、ソーシャルグッド(社会的な価値)も大切にした。女性用はピンクで男性用は青という長年続いているそれまでの価値観を捨て、ダイバーシティや多様な価値観に即したモノづくりを実践していった。実際、浅見氏が手掛けたステンレスボトルには典型的なピンクが用意されていない。

 「社長である菊池も米国の大学に留学していたので、グローバルな事業戦略やマーケティング、女性の活躍や多様性の重要性は分かっていたのだと思います。それを現場で実行するリーダーを探していたのだと思います。当時部長以上は男性ばかりだった中で、女性の私を起用したことは、菊池の改革への強い決意を感じました」 (浅見氏)

浅見氏が手掛けたサステナブルな「真空断熱ボトル MCZ-S040/S060/S080」。カラーバリエーションやデザインなどが、従来製品とは一線を画している

 「またお客様調査では、タイガーの顧客が中高年に偏っていることに危機感を覚えました。現在は、もっと若い方へのアプローチを進めています。既存のお客様に聞くと、女性はピンクで男性は青という価値観はやはりまだまだ根強いです。しかし、今後は若い世代が価値を感じるような製品や、若い社員が誇りに思えるような製品を作っていきたい」(浅見氏)

 そうした浅見氏の考えや、社内一丸となって実行したさまざまなマーケティング施策は早くも実を結び、ケトルに関しては1年半でシェアが倍になり、炊飯器の売り上げは業界平均を約30%ほど上回る形で推移。特に直近の2年間は好調で、営業利益率は約5%ほど改善しているそうだ。

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