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「優秀だが、差別的な人」が面接に来たら? アマゾン・ジャパン人事が本人に伝える“一言”即NGではなく(3/3 ページ)

» 2021年09月21日 07時00分 公開
[小林可奈ITmedia]
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 上層部のマネジャーが上田さんに、「ある社員をAのポジションに異動させたい」と話したことがあった。決して悪い話ではなく、挑戦にあたるような異動で、本人の可能性を見込んでのことだったという。

 ところが、本人に打診したところ「自分が次のキャリアとして望んでいるのは、Bのポジションだから」と断られてしまった。「自分のキャリアを選択するのは自分」と忖度せず断ったことに、上田さんは衝撃を受けた。その後、マネジャーと本人のどちらからもネガティブな反応はなく、フラットな姿勢で辞退を受け入れていた。

 また、別の記事『「日本は技術があっても、ビジネスで負けてしまう」 元官僚が米Amazon社員になった理由』で日本法人から米国本社に移った日本人社員を紹介したように、社内異動制度(インターナル・トランスファー)を利用する社員も少なくない。

 社員は国内含め全世界のポジションの空き状況をチェックし、手を挙げることができる。プライベートな理由で居住国を変えたい社員や、希望するポジションが外国にある社員などが利用している。

 「経験上、海外への異動や退職を引き留めることは、99.9%は本人にとってアンハッピーな結果になります。やはりキャリアを決断するのは本人なので、喜んで送り出してあげた方が、本人のためです」(上田さん)

 本人とのディスカッションで、海外への異動などによって何を得たいのかを整理し、アドバイスしたうえで送り出すようにしているという。

大事なのは“インプット” 結果は着いてくるもの

 Amazonには「地球上でお客様を最も大切にする企業になる」という目標があり、全てはこの目標のためにあるのだと上田さんは語る。顧客の多様なニーズを満たし、またイノベーションを起こしていくためには、社内の多様性を担保することも重要だというのが、採用などでも多様性を重んじる理由だ。

 Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の「DEI」の促進に注力しているが、「DEIやリーダーシップ・プリンシプルは、決して人事がリードしている訳ではない」という。「ビジネス(事業部門)がリードし、人事がパートナーとして進めていく」ような形だ。人事の役割は、これらを推奨のうえ仕組み化していくことに過ぎない。

 DEIは、「初心に戻っていろいろと物事を考えさせられる分野」(上田さん)だが、大切なのは実験することだという。色々と試し、失敗に学びながら促進していく。

 促進のためのアプローチは、“インプットフォーカス”を心掛けている。例えば女性社員や女性管理職の比率を上げることは、アウトプット(結果)にあたる。アウトプットはあくまでも最終的なものだ。

 アマゾン・ジャパンでは、最初に注目すべきは採用時のバイアスで女性が排除されないような仕組みづくりや、女性が希望するキャリアから脱落してしまう原因に対処する、といったインプットの部分だと考えている。女性社員や女性管理職の比率の上昇は、その結果として着いてくる。そのためには、先述した言葉遣いへの配慮など、仕組みの工夫が重要だ。

コロナ禍より前に在宅勤務を定着させた工夫

 制度や仕組みは、作って終わりではない。促進のためには都度、調整していく必要がある。「社内に既に存在するが、あまり使われていない制度」を促進していくのも人事の仕事だ。

 例えば現在、多くの企業が在宅勤務を導入しているが、コロナ禍以前には企業側の人事から呼びかけても、あまり定着しないということが多かった。「制度はあっても、結局は誰も使わない」という状況を生まないためには、工夫が必要になる。

 アマゾン・ジャパンでも数年前までは、制度は存在しても「在宅勤務って、育児中のお母さんがするものでしょ」という雰囲気だった。「子どもが熱を出したので、在宅勤務します」というように、社員は理由を明らかにしてから在宅勤務していた。

 しかし、「理由があるから在宅勤務」してしまうと、「子どもは良いけどペットはダメ」「子どもの熱が理由なら良いけど、子どもの野球の試合を見に行くためならダメ」というように、理由の価値判断が生まれてしまう。

 これは良くないと、在宅勤務をする際に、理由を聞きかないことにした。在宅勤務する理由を上司が聞いて、価値を判断する必要はないと考えたためだ。このような工夫によって、コロナ禍以前から在宅勤務が受け入れられていた。

 社員が最も重んじるべきリーダーシップ・プリンシプルですらしばしば変更があり、最近も2項目追加され16項目になったばかりだというアマゾン・ジャパン。試行錯誤も含めて、「変化を楽しめる人が多い」(上田さん)という環境で、今後はどのようなことに取り組んでいくつもりなのだろうか。

 「当社は周囲からも部下からも、企業理念に基づいたいろんな意見をもらって、成長していける環境だと思います。これからもアマゾン・ジャパンに来る人に、この環境を大好きになってほしいですね」(上田さん)

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