クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタSUV陣の最後の駒 玄人っぽいクルマ作りのカローラクロス池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)

» 2021年10月04日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 「もはやカローラを80点主義などとは言えない」という原稿を読んだのはいつの頃だろうか。少なくとも20年、下手をしたら30年近く前のことかもしれない。

 トヨタは、会社としては割と嫌われ者だ。製品で覇権を取り、グローバルマーケットでもシェア10%越えと驚異の人気を持ちながら、ファンよりアンチが多いという会社は、知っている限りトヨタとマイクロソフトしかないのではないか。

 デカくて強いものに対するアンチテーゼなのか、あるいはマーケットの覇者に擦り寄っていると思われたくないのか。特に原稿を書く職業の人はトヨタと対峙(たいじ)する時に斜に構えがちになる。

 そういう世の中の雰囲気の中で、カローラクロスは、これまた難しいクルマだ。率直な感想としては「十分以上に良い。だけどこれといって光るとか、ウリになりそうな何かがない」。という書き方をすると、これがまた「だから80点主義なんでしょ?」という話になるのだろうが、そういわれると、そうじゃない。

SUVとしてはスペースユーティリティを優先したことが分かるルーフライン。リアガラスの傾斜が穏やかで、ルーフラインの後ろ下がりも抑制されている

 このあたりで、書き手としては一回固まる。褒めようと思えば相当に褒められるし、でもその背中を押してくれる何かはない。ちょっと不安だ。「お前、トヨタの提灯持ちか?」と言われたくないのは誰だった同じだ。それでも褒めて後悔なしと思えるほど思い入れられないのも確か。

 褒めようと思えば褒められるし、文句を付けようと思えば、うれしさ領域でいくらでも足りないと主張できる。クルマを持つことの中に含まれるヨコシマな気持ちを擽(くすぐ)ってはくれない。男の子の魂をがっちり掴(つか)んで放さない合体メカ的な何かとか、埠頭の係留柱(ボラード)に片足乗せてパイプでも咥えてやろうか、みたいなバンカラな気持ちに追い風が吹いてこないのだ。クルマの世界でコスプレする「俺」の居場所が見付からない。

 だからといってダメ出しをしようと思っても、スキは多くない。強いていえばGA-Cプラットフォーム全部が共通でダメなところである床の振動くらい。ステアリングギヤの操作感にもう少し艶(つや)があっても良いけれど、剛性も精度もちゃんと出ていて、「それを実現するためには多少高くなってもやるべき」とまではとても言えない。

 だから難しい。ともすると、褒めるか貶(けな)すかというスタンスを最初に決めて話を始める、つまり結論ありきで書いてしまう気がする。誠に踏み絵のようなクルマである。

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