クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

全固体電池は、なにが次世代なのか? トヨタ、日産が賭ける巻き返し策高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2021年12月06日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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バッテリーの争奪戦が今後激化していくことは確実

 冒頭で述べた疑問の通り、多くの自動車メーカー、EVベンチャーは自前でバッテリーを開発するようなことはせず、電池メーカーから供給を受ける構造をとっている。理由は簡単で、バッテリーの開発は専門メーカーに任せ、リソースをEV本体の開発に集中させたい(といってもモーターやインバーターもサプライヤー任せだったりするが)からだ。

 それでは他車との差別化が難しくなり、価格競争に巻き込まれるだけだ。こうなると人件費が安く国を挙げてダンピングさえ仕掛けてくるメーカーには、日本メーカーは太刀打ちできない。

 そのため安全、安心、高性能をアピールできる材料として、独自のバッテリーや電動化技術を搭載する姿勢をとっているのだ。トヨタや日産がバッテリーを自社開発する理由は、ここにある。トヨタの場合、グループ内でバッテリーを生産している豊田自動織機の存在も大きい。

 もちろんトヨタほどの規模となればバッテリーの供給を1社に集中させることはなく、状況に応じて使い分けることやリスクヘッジのために分散させることもある。実際、ほとんどの自動車メーカーはEV用のバッテリー供給元として複数の電池メーカーと契約している。

 こうしたEVのバッテリー技術において、最も先端を突っ走っているのが、前述の全固体電池なのである。このあたり、テスラのようなまだ身軽なEVメーカーにとっては心配は杞憂(きゆう)なのだろう。技術面でブレークスルーを起こしたバッテリーメーカーに供給を迫ればいいのだ。そのためには素材の権利を握っておくことが必要だ、ということもあってか最近のテスラは原料のリチウムを直接購買する動きをみせている。

 それでも全固体電池になれば、すべて解決するのかといえばそんなことはないし、従来の液系リチウムイオン電池でも、やれることはある。パナソニックはテスラの要望で大容量の円筒型を開発したし、不燃性の電解液を採用したタイプも開発されている。

 ともあれ、トヨタは20年代前半にハイブリッド車に全固体電池を採用して発売することを明言しており、日産も24年度に試作とはいえ生産ラインを作る以上、少量生産でも実用化を図れる可能性はある。エンジンを捨てる宣言をしたホンダも20年代後半での採用を目指すと目標をブチ上げている。

 中国やフォルクスワーゲンなどの欧州メーカーとも開発競争を繰り広げている分野だけに、「EVで遅れている日本勢」などというレッテルを払拭できる。そうした期待も含めて、早期実現を果たしてもらいたいところだ。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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