クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新生日産が目指す道とは 電動化への“野望”を読み解く鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(4/4 ページ)

» 2022年02月08日 07時00分 公開
[鈴木ケンイチITmedia]
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 そんな日産の「野心的」な計画は、日産だけでなく、ルノーと三菱自動車というグループ全体でも共通化されたものでした。22年1月27日に「ルノー・日産・三菱自動車アライアンスのロードマップ Alliance 2030」が発表されました。その内容は、グループ3社をあげて、電気自動車とコネクテッドに突き進むというものでした。

 投資は、これから5年間で230億ユーロ。日本円で約2兆9900億円にもなる巨額な投資です。30年までに5つのEV専用プラットフォームを使って、グループ全体で35車種もの電気自動車を市場に投入するといいます。

 そのEV専用プラットフォームのひとつが、日産アリアが使う「CMF-EV」で、30年までに15車種以上が同プラットフォームを使い、年間生産台数は最大150万台を目指すというのです。また、コンパクトカー用のEV専用プラットフォームは「CMF-BEV」と呼び、日産「マイクラ(日本名:マーチ)」の後継モデルに採用が予定されています。この新型コンパクトEVは、日産がデザインし、ルノーが開発を担当し、フランス北部において生産されるとか。こちらの年間生産台数は約25万台を目指します。

アライアンスの優位性だとうたうEV専用プラットフォーム「CMF−BEV」(アライアンス発表会より)

 巨額な投資を行い、EV専用プラットフォームを使って、グループとして数多くの電気自動車を投入するという計画です。

 ただし、計画の内容を冷静に精査してみれば、どこにも「エンジン車をやめる」とはありません。30年の目標として挙げられた数字は「グローバルで50%以上を電動車にする」というもの。電動車とは電気自動車に限らず、ハイブリッドも含まれています。

 巨額な投資額と、35もの電気自動車の投入に目を奪われますが、目標が50%以上ということは、逆にいえば、半分近くは、まだエンジン車。重心の半分はエンジン車に残っているのです。ある意味、とても現実的で冷静な判断ではないでしょうか。

 個人的な予想では、本格的にEVが売れるようになるのは、リチウムイオン電池の価格が下がり、次世代の全個体電池が登場する28年度以降のはず。エンジン車とEVが、補助金なしのイーブンな状態で価格競争ができるようになって、初めてEVの本格普及期になるのではないでしょうか。つまり、本当のEVシフトは、30年代になってから。そして、日産は、その先を目指して準備を行っている。そのように見ています。本当の勝負は、10年先なのではないでしょうか。

筆者プロフィール:鈴木ケンイチ

1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。


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