ロシアからの石油や天然ガスが途絶えても、米国のシェールオイルがカバーできる?高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)

» 2022年03月15日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

いまさら振り返る、シェールオイルとは何だ?

 従来の石油は、地下深くに堆積していた有機物が長い時間をかけて分解されたもので、揮発性の高い成分が天然ガスとなって地中に溜まっている。つまり石油と天然ガスは、油田により比率が異なるものの、ほぼ同一の物質から作られたもので、揮発しやすいのが天然ガスになり、液体として沈殿しているのが石油だ。

 そのため油田を掘り当てれば、内部の圧力によって自噴するか、ポンプでどんどん汲み上げられる。石油の埋蔵量の多い中東の産油国などは、コストを最小に膨大な利益を上げ国を繁栄させて、国民の豊かな生活を実現させてきた。

 そんな従来の油田は、半世紀近く前からずっと「あと50年で枯渇する」といわれてきた。この可採年数は新たな油田の発見や採掘技術の進化で延ばされ続け、いつまで経っても「あと50年で……」と言われる状態が続いてきたのである。

 ところが20年ほど前からは、そんな従来の常識が通用しない出来事が石油業界で起こった。それまで採掘不可能と思われていた原油が突如として登場し、原油市場を揺るがしたのだ。

 それがシェールオイル、シェールガスだ。これは地中にある頁岩という比較的もろい岩が積み重なった層に挟み込まれる、あるいはその下に存在するもので、存在自体はかなり昔から認められてきた。しかしながら取り出すことはできないか、できても採算が取れないと思われてきたものだ。

 しかし頁岩の裂け目を塞ぐ金属性の物質を塩酸で溶かしたり、高い水圧で頁岩層に亀裂を生じさせることでオイルやガスを取り出すことが技術的に可能になったのである。このシェールオイルが大量に埋蔵されているのが米国で、これによって米国は事実上、世界最大の産油国となったのだった。

 シェールオイルという膨大な石油資源を得て、米国と中東産油国の力関係も変化した。従来の産油国である中東の原油価格への影響力は弱まり、米国の影響力が高まった。これをOPECが歓迎するはずがない。

 かつてOPECは原油価格を引き下げてシェールオイル企業を淘汰させたことがある。当時のシェールオイル企業は、1バレルあたり80ドル台後半が損益分岐点だといわれていた。産出可能になったとはいえ、従来型の油田に比べれば採掘コストはかなり高い。そこでOPECは過剰に原油を供給して原油価格を50ドル台にまで低下させた。その結果、いくつかのシェールオイル企業はたまらず破綻に追い込まれたのだ。

 だが、そんな中でも生き残ったシェールオイル企業や石油メジャーが生産コストを引き下げ続け、最近では40ドル以下で採算ベースに乗せられるといわれている。

 ウクライナ危機で跳ね上がった原油価格を見れば、また米国でシェールオイルブームが起こり、既存の企業が増産に走るだろう。すでにその姿勢を表明している企業も現れている。それだけでなく、新たな企業が参入することで急騰した米国内の燃料価格も下降し、なおかつ再びゴールドラッシュのような活気づいた状況になるのではないだろうか。

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