「バカバカしい」と失笑するかもしれないが、実は皆さんがあまり気づかないだけで、世の中ではそのような「啓発」的なマーケティングが山ほどあふれている。
例えば、ちょっと前まで「ハゲ」というのは年を取ったら自然になるものだと思われていた。が、近年では「お医者様」がテレビコマーシャルやらに頻繁に登場をして、「AGAという病気です」「お医者さんに相談しよう」と盛んに啓発をしているではないか。「ハゲ」を病気にしたら、いったい誰がもうかるのかをよく考えれば、これが「マーケティング」だということは明らかだ。
日本人から絶大な信頼を受けている医療従事者の協力を仰げば、これくらいのことができる。ならば、「コロナが落ち着いてもマスク着用を続けるべき」なんて常識を刷り込むことくらい朝飯前ではないのか。
そしてこのような動きは、政府もバックアップするはずだ。コロナ禍が始まった当初、マスク不足が非常に大きな問題となって、国は補助金を出して、国内生産体制を構築した。これを維持しておかないと次のパンデミックが起きたときにまた同じ問題が起きてしまう。
国内マスクの生産体制を今のまま維持するためには、「備蓄」の需要だけでは心許ない。かといって、税金で支えるのは避けたい。となると、消去法で一番現実的なのは、「国民に平時からマスク着用させておく」ことだ。
政府が呼びかけて、マスク需要をある程度キープさせておけば、企業側は赤字にならずに安定供給ができる。場合によっては、マスクの技術が向上して、他国に輸出できるような産業に成長するかもという淡い期待もある。
このように今の日本政府や、マスク産業にとって、国民が多少不便であっても、人とのコミュニケーションが希薄になっていても、「マスクをつけさせ続ける」ほうが遥かに“旨味”があるのだ。
もちろん、これは筆者の勝手な想像である。ただ、出る杭を打って、さらに陰口でいびり倒して自殺に追い込むような日本人の気質的にも、「今日からマスクするのやめた!」なんて人を容認する社会はなかなか実現できないのではないか。
アフターコロナになったところで、われわれの「withマスク」はまだ当分続きそうだ。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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