投資や転売目的で海外ブランド品が購入されるのは、定価以上でも買いたいという消費者がいるために成り立つ現象だ。このような目的での購買行動が生まれやすい市場としては、需要と均衡、そして価格のバランスに歪みがあるというパターンが一般的であるが、それだけでは「プレイステーション5」(PS5)や「Nintendo Switch」(ニンテンドースイッチ)のようなゲーム機等の転売事例と大差がない。
海外ブランド投資をめぐっては、転売者による「お小遣い稼ぎ」というよりも、購入者の「資産防衛」という側面にスポットライトを当てると意外な観点が見えてくる。
富裕層やマネーリテラシーの高い層は、海外ブランド投資が発生する前から、宝石や純金と並んで、高級時計やブランド品を自身の資産価値を保全する投資対象とみなしていた。これらの製品のうち、大きな値上がりが期待できるのは、生産数が限定されている人気のモデルである場合が多く、これは埋蔵量が有限の純金や原油、不動産のような現物資産性を有しているといえる。
一見、ブランド品を買い漁るのは浪費、つまり「消費」に位置付けられやすいが、お金持ちが高級時計などを購入するのは、私たちがA銀行からB銀行にお金を移し替えるのと同じように、換価性の高い資産同士を移転しているにすぎないのだ。つまり富裕層は自身のお金を守りたいがために高級時計を買うのである。
ではなぜ、時計なのだろうか。それは、株式のような金融資産がインフレに万能とはいえないからである。インフレは利上げをもたらすことから、国債(無リスク資産)と株式の利回り格差の縮小を招くため、理論株価を減少させる変数となり得る。利上げ局面は株式市場から国債市場へのマネー流出を招き、株式のようなインフレに強いといわれる資産においても、不安定な相場をもたらす性質があるのだ。
一方で現物資産の値上がりは、インフレーションの“根拠”であることから、金融資産とは異なり、物価上昇による価格への影響を正面から捉えやすい。
日本では一時1ドル125円を突破する急激な円安と、世界的なインフレがダブルパンチとなる形で国民生活に襲いかかっている。急激な海外のブランド品への関心拡大は、インフレ下で弱っている通貨の中でも、国債的にとりわけ弱い円を保全する動きを表しているのではないだろうか。そして、国内ではなく海外のブランドに円を移し替えることで、実質的に海外建のインフレに強い資産を組み込もうとしていることが関心拡大の要因なのだろう。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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