価格、バッテリー容量、航続距離というトレードオフのバランスさえうまく取れれば、BEVは、従来の軽自動車の課題を解決するものになるかもしれない。その課題とは、走行性能と静粛性、そして室内空間だ。
軽規格には、660ccという排気量の上限、全幅1.48メートル、全長3.4メートル、全高2.0メートルというサイズ面の上限がある。これは軽自動車のクルマとしての総合品質に大きな制約を課すものだ。
ところが、BEV化によってここが劇的に変わるかもしれない。「走行性能と静粛性、そしてより広い室内空間。軽自動車の課題の3つを打ち破った」と星野氏は言う。
走行性能としては、デイズのターボエンジンモデルの2倍のトルクとなる195Nmのモーターを搭載した。最大出力は47kWでガソリンエンジンモデルと変わらないものの、モーターの特性である低回転時からの高いトルクは、特に低速域において力強い走行を可能にする。
SAKURAに限らないが、バッテリーを床下に設置することでBEVは低重心で安定した走行が可能になる。また、エンジンに比べてモーターは省スペースであり、限られた寸法の中で、広い居住空間も実現できる。SAKURAの設計コンセプトとしては「広い室内空間にこだわる」ことを掲げており、ここもガソリンエンジン車に対するアドバンテージだ。
エンジンがないことで静粛性も大幅に向上した。軽自動車は遮音部品が少なく、エンジンのパワーも小さいため、速度を上げると回転数が上がらざるを得ず、音がうるさいのがネックとなっていた。SAKURAではモーターを支えるマウント構造を最適化し、車体に伝わる振動を抑えるなど、BEVのメリットである静粛性を生かす作りとした。
理屈としては、日常の足として低速度域で使われるEVは、走行性能、静粛性、室内空間のそれぞれにおいて、ガソリン車を上回る。しかし、ゲームチェンジャーになれるかどうかは、やはり価格と航続距離のバランスが受け入れられるものになっているかどうかだろう。
各種補助金をフルに使えば、ガソリンエンジンの軽とほとんど変わらない価格はさすがだ。一方で、180キロという航続距離は遠出に使える余裕はない。また、自宅で充電するには工事を行い充電設備を設置しなくてはならない。そして、普通充電の場合、満充電まで8時間が必要だ。
ガソリン車からEVへの乗り換えは、単にクルマの入れ替えでは完了せず、充電の設備や外出時の残走行距離の管理など、意識やインフラの変化を必要とする。SAKURAは、人々の意識もチェンジさせられるか。特に軽自動車が普及する地方において、ここが最大のチャレンジとなりそうだ。
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