以上を総括すると、インボイス制度の開始に先立って、企業は仕入先の状況に応じて、取引価格に関して図表3のような対応を図る必要があり、中でも価格改定の可否とその程度が大きなポイントになることが分かります。
いずれにせよ、どの対応を採るかを決定した上で社内外の調整を行い、制度の開始に間に合わせなければなりませんから、あまり時間的余裕はありません。
実際に免税事業者である取引先と取引価格の改定を交渉する際は、法に触れない範囲で価格改定を行わなければなりません。
一般論として、免税事業者は小規模な事業者であり、そのような事業者を仕入先にもつ企業は、情報量や交渉力において仕入先に勝っていることが想定されます。
そのような地位を利用して一方的な価格改定を行い、不当に不利益を与えることは、独占禁止法上の優越的な地位の濫(らん)用に当たる可能性があります。
仮に、自社が行った価格改定がこのようなケースに当たると認められた場合、排除措置命令や課徴金納付命令の対象となります。
また、自社が営む事業の種類によっては、下請法や建設業法の規制を受ける可能性があります。
仕入先との間の価格改定交渉は、以上のような法的な問題を引き起こさないよう、十分に注意して行う必要があるのです。
このような問題意識からか、22年に入り、財務省・公正取引委員会などが「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年3月8日改正)を公表しました。このQ&Aでは、Q7で独占禁止法などによって問題となり得る具体的な行為が解説されていますので、以下、その要点を確認します。
まず、取引対価の引下げです。Q7のAでは、最初に、独占禁止法上問題とならない取引価格の改定の在りようについて、以下のように述べられています。
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、[経過措置(図表2)を適用してもなお]仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定(以下略)([ ]内引用者)
価格交渉の対象が図表2の経過措置を適用してもなお仕入税額控除できない分に限られること、免税事業者の消費税負担を考慮すること、双方納得の上であることなどが必要とされている点に注意しましょう。
その上で、以下の場合には、優越的な地位の濫用に当たって独占禁止法上問題になると述べられています(要約)。
なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合
いずれの場合も、仕入先が負担していた(または今後納税することになる)消費税に配慮しない場合である点に注意を要します。
このほか、下請法上または建設業法上問題になる場合についても述べられていますので、適宜、Q&Aを参照してください。
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