【新潮流】SaaS×Fintechを理解するための3つのポイント(2/5 ページ)

» 2022年06月10日 05時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

企業のお金にまつわる業務はアナログで溢れている

 「企業間の取引体験は今後“amazon化”する」と述べるのは、法人支出管理SaaS「バクラク」シリーズを提供するLayerXの福島氏だ。

 従来より企業のお金にまつわる業務のインフラは金融機関が担っており、決済や融資といった機能は長きに渡り銀行の主要なビジネスであった。これまで当たり前のように受け入れられてきた既存の金融サービスだが、企業のIT化・SaaS導入が進む中で、変革の波が見られる。

 下記の画像はLayerX社が表現する「これまで」と「これから」の請求書の処理フローだ。

(LayerX社提供資料)

 従来からの一般的な経理プロセスである「紙とハンコの世界」では、デジタル化が進む現在においても紙や手入力といったアナログな業務が色濃く残っていることが分かる。

 一方で既に現実のサービスとしても実装されている「デジタルの世界」のプロセスでは、人手を介す処理は非常に少ない。

 「私たちが個人としてECサイトで買い物をしようとすると、ネット上でワンクリックで全て完結します。一方で、企業間取引においては、従来からの手間が残り続けています。BtoCの購買体験のようにBtoB取引のあり方も今後変わっていきます」と、請求書をベースとした決済プロセスは、今後デジタルなやり取りに変化していくと福島氏は指摘する。

 同社が提供する「バクラク」シリーズはいずれもこれらのプロセスのデジタル化を推し進めるプロダクトであり、企業の経理業務の効率化推進に期待がかかる。

 このような企業のお金にまつわる業務の効率化は請求書の処理や決済だけに留まらない。

 介護・医療業界向け人材紹介を主力とするエス・エム・エスは、介護事業者向けサービス「カイポケ」を提供する中で、業種に特化したファクタリング(債権の買り取りサービス)の提供を2014年から開始している。

(カイポケWebページより)

 介護施設が受け取る介護報酬は、国保連に請求後、入金まで1.5カ月間のタイムラグが発生する。エス・エム・エスは、この債権を一定の手数料で買い取り、最短5営業日で入金を行うサービスを提供している。

 介護サービスの運営者は中小の事業者が大半であり、日々の資金繰りに追われる企業は少なくない。一般的なファクタリングサービスを利用すれば手数料が高く、銀行での融資は時間を要する。

 エス・エム・エスは、介護報酬といった回収リスクの極めて少ない債権買取サービスをSaaSを使い、シームレスな導線を提供することで着実な収益を上げている。

 これらの事例のように「企業のお金にまつわる体験の向上余地」は多くの領域に残っている。

 IT調査会社ガートナーの調べによれば、国内のSaaS化率は21年4月には4割を超え、アーリーアダプターからアーリーマジョリティに移行しており、キャズムを突破しつつある。

 さまざまなユーザーデータを内包するSaaSプロダクトが普及しはじめた中で「アナログに溢れた企業の金融体験」の変革がまさにこれから始まろうとしている。

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