クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2022年07月05日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

友達の中のバカがひとりくらい間違って申し込んでしまうくらいの距離感も

 池田はそんな金満的なことを言うヤツだと思わなかった。見損なったと言うなかれ、ここからわれら貧乏人に向けたプログラムの提案が始まる。

 先に述べた通り、GRMNヤリスが500台限定になった理由は、量産が効かないパーツがあるからだ。最高のクルマに仕立てたい思いがあって開発しているわけだから、そこを妥協したくは無い。スペシャルなパーツを組み込みたい気持ちはよく分かる。だから妥協無き逸品は限定でも仕方ない。

 そういうスペシャルなパーツを組んで台数を絞った「特上」の下に、貧乏人に向けて、量産の難しいパーツだけ省いた「上」を作ればいい。カーボンじゃなくてアルミだとか、そのあたりはGRヤリスと融通しながらうまくやればいいことだ。なにそこが多少変わったところで、ボディとパワトレさえ同じなら、絶対性能の差はわずかである。

 そしてこちらはGRMNヤリス・フェーズ2とかの名前で、現状くらいの値段で売れば良いのだ。利益を圧迫する小量生産部品が無い分利幅は上がる。その代わり限定台数をもっと大幅に緩くする。そして、こっちこそ完全に平等な抽選でいい。お金が無いクルマ好きに向けて売るのはこちらだ。まあ自分の懐ではそれでも無理というのはひとまずおいてだ。

 トヨタがGRのビジネスの戦略を拡大していくためには、全体のイメージを引っぱるGRMNシリーズは極めて重要だ。ただ余りにも限定台数が少ないと、埋もれてしまってイメージリーダーにならない。だから、フェーズ2を作って、もう少しマーケットでポピュラーにしてやればいい。手の届かない高嶺の花にも限度はあるので、友達の中のバカがひとりくらい間違って申し込んでしまうくらいの距離感を持ちたいのだ。

 そのイメージに乗せて、「特上」と「上」の下に位置する「並」に当たる各車種のGRバージョンを売り、さらに、バリューチェーンの充実のためにGRパーツを売る。そこが商売の本質である。だからこそ、それら全てを引っぱるGRMNは現状で余りにも希少過ぎる。そしてその希少なGRMNを持っているユーザーにはステータスの提供が足りていない。そこは煩悩と欲望が交差する世界であり、清貧の思想をもって臨んではいけないのだ。

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