クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2022年07月05日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない

 トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない。例えば今回のGRMNから、2年、あるいは5年後にさらに磨き上げられた新型GRMNモデルが出てきたとしよう。

 ユーザーの中には、ファーストエディションも買ったし、さらにGRMNヤリスも買った人もいるはずだ。こういうユーザーは、果たして次の限定車がリリースされる時に、一見客と同じように「平等なくじ引き」に参加すべきなのだろうか? それは果たして真の意味で平等なのか? 2台、3台と買い続けてきた気持ちは、ここで抽選に外れたら確実にテンションが切れる。そんな残酷な扱いを自社のロイヤリティファンにしていいものだろうか?

 同じ状況に際して、フェラーリはどうやっているかというと、はるかにクレバーである。F40を買って、現在も維持している客でなければF50は売らない。そしてF40とF50を買って今も持っている客でなければ、エンツォは売らない。そうやって、スペシャルモデルをリリースするたびに、ロイヤリティユーザーとの関係性を作っていくのだ。

フェラーリが創業55周年に発表した限定車エンツォフェラーリ。7850万円の価格だが、中古車価格は3億円を超えたこともある(写真:Wikipedia)

 ついでに説明しておけば、こういうフェラーリのスペシャルモデルは間違いなくプレミアムが付くので、転売で儲(もう)けるヤツが後を絶たない。そういう輩に優先的にスペシャルモデルが回らないようにするために、過去に購入したスペシャルモデルを現在も維持しているという制約が付いているわけだ。

 もうひとつ現実的な話をすれば、こうやってシリーズで連綿とスペシャルモデルを出していくと、たまに「ちょっと落ちる」モデルがどうしても出てくる。客は不思議なものでこういうのをちゃんと見分ける。歴代モデルがそろっていることがスペシャルモデル割り当ての条件になっていると、こういう不作モデルでもちゃんと売れる。結局のところ、こういうトッププレミアムのブランドビジネスはある意味会員権ビジネスのようなもので、その世界への出入りを認められることそのものがステータスなのだ(記事「プレミアムって何だ?」参照)。

 ではこのソサエティに途中から入るにはどうするのか? 例えばF40を持っていないのにF50が欲しい客は、F40のオーナーから紹介してもらうのだ。新規でその世界に入った客は、当然紹介者の顔は潰せない。よきメンバーに育っていく可能性が高い。そうやってロイヤリティユーザーを増やしていく。

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