トヨタはこうした上顧客とのコミュニケーション技術を磨くべきである。ロイヤリティユーザーに500台の限定を先行予約させるにしても、思った以上に注文が来てしまうこともあるかもしれない。全部が上顧客だからそれはそれは厄介なことになる。それをどう配分し、お客の気持ちをつなぎ止めるかを考えるのは、営業の仕事だ。
上顧客の中の上顧客には、公式発表前に担当営業がこっそり囁(ささや)いて、予約を取っておく。こういう情報を誰に渡し、誰をそこから抜くかをちゃんと戦略的に考えることはとても重要だ。客からすれば「あいつがアポを入れてくるってことは、なんかスゴいのが出る前触れかな」というように、有用な情報源になっていく。それが信頼関係だ。
スペシャルモデルを売らない相手にはどうするのか? 例えば、実情としてはお金的に少し苦しいユーザーに見当を付けて、フェーズ2にダウングレードしてもらって、でもレースギアやレッスン枠とかは何とかしましょうとかでも良いだろう。
要するに世の中の全てが公明正大なわけじゃない。オープンで明朗なことは一般的には大事だが、それだけでは通じない世界も世の中には存在する。そういう曖昧でスタンダードが無い世界に慣れるべきで、そういう交渉がちゃんとできるかどうかがプレミアムビジネスの成否を分ける。
そうして、こういう顧客との新しい関係構築術をしっかりマスターしたら、それをアレンジしてレクサスのビジネスへと展開していくべきだろう。そう考えるとこのビジネスのスケールはかなり大きい。そこへ進むためのひとつながりの一歩に成り得るGRMNヤリスのビジネスはもうちょっと工夫すべきだったのではないだろうか?
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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GRMNヤリスに乗せていただいてきた。のっけから何だと思う読者諸氏も多いだろうが、思わずそう言いたいくらい良かったのだ。本当にこの試乗会くらい、呼ばれて良かったと思う試乗会もなかった。これに関してはもうホントにトヨタに感謝する。筆者の自動車人生の中で特筆に値する経験だった。
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すでに昨年のことになるが、レクサスの新型NXに試乗してきた。レクサスは言うまでもなく、トヨタのプレミアムブランドである。そもそもプレミアムとは何か? 非常に聞こえが悪いのだが「中身以上の値段で売る」ことこそがプレミアムである。
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GRヤリスの試乗会は今回が3度目である。そして年の瀬の足音が近づいてきた今頃になって、ようやく公道試乗会に至ったわけである。多分GRヤリスが欲しいという大抵の人には、RZ“High performance”がお勧めということになるだろう。こういうクルマは、買ってから後悔するくらいなら全部載せが無難だ。
- ヤリスの何がどう良いのか?
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- ヤリスのトレードオフから考える、コンパクトカーのパッケージ論
ヤリスは高評価だが、満点ではない。悪いところはいろいろとあるが、それはパッケージの中でのトレードオフ、つまり何を重視してスペースを配分するかの結果だ。ヒューマンインタフェースから、なぜAピラーが倒れているかまで、コンパクトカーのパッケージに付いて回るトレードオフを、ヤリスを例に考えてみよう。
- GRヤリスで「モータースポーツからクルマを開発する」ためにトヨタが取った手法
トヨタは「モータースポーツからクルマを開発する」というコンセプトを実現するために、製造方法を変えた。ラインを流しながら組み立てることを放棄したのである。従来のワンオフ・ハンドメイドの側から見れば高効率化であり、大量生産の側から見れば、従来の制約を超えた生産精度の劇的な向上である。これによって、トヨタは量産品のひとつ上にプレタポルテ的セミオーダーの商品群を設定できることになる。
- ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(前編)
トヨタでは、このGRヤリスを「WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデル」と位置づける。AWSシステム「GR-FOUR」を搭載したこのクルマは、ハードウェアとしてどんなクルマなのか。そして、乗るとどれだけ凄いのだろうか。
- トヨタの大人気ない新兵器 ヤリスクロス
ついこの間、ハリアーを1カ月で4万5000台も売り、RAV4も好調。PHVモデルに至っては受注中止になるほどのトヨタが、またもやSUVの売れ筋をぶっ放して来た。
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