――只見線と奥会津を撮り始めたきっかけは何だったんですか。
星: 地域の活性化です。地元の佐久間建設に勤めていた47年間で、地域が疲弊していく様子をまざまざと見ていました。この地域は農業も林業もダメで、建設会社が唯一地域の産業として成り立っていた。地域の経済を支えていたんです。ところが06年に福島県知事の佐藤栄佐久さんが汚職事件で逮捕されて、それがきっかけで福島県は指名競争入札を止めて一般競争入札を始めた。
オレはそれに猛反発したんです。そんなことをしたら地元の建設会社は全部倒産するぞと。よその大手建設会社がやってきて良いことばっかり持っていってしまう。残ったのはお金にならない仕事だけ。実際その通りになってしまった。
雇用が失われて、品質が失われて、安全が失われて。一般競争入札で少しばかり費用が安くなったって、この地域のどこにメリットがあったんだと訴えました。業者が5分の1になって、雇用が10分の1になった。それに代わる手当が何もない。ただ疲弊しただけ。
50年前に、オレの生まれ育った三更(みふけ)集落がなくなって、地域がなくなるということがいかに悲しいことなのか。自ら体験してよく分かってますから。
三更(みふけ)集落で生い立ちを語る(『霧幻鉄道 只見線を300日撮る男』より)
――映画の中で廃屋に座っていらっしゃったあの場所ですね。霧幻峡の渡し船で行くところ。
星: 地域を活性化させる。そのために写真を撮り、霧幻峡の渡し船を復活させる。このままでは会津全体が潰れてしまうだろうと危惧を抱いて。だったらオレにできることは何だと。活性化させるには観光客を呼ぶしかない。なぜかといえば、ここは四季の絶景がある。春の桜、夏の川霧、秋の紅葉、冬の雪景色。どの時期も素晴らしい場所って、日本や世界にはなかなかない。
――夏の絶景はなかなかないですね。奥会津は映画の冒頭のように川霧がある。
星: この絶景の中に只見線が映る。列車が走ることで景色に魂が入るんです。物語も生まれる。だからオレは30年間、只見線だけを300日撮ってる。ほかの場所で撮っても意味がない。地域活性化を狙って写真を撮っているわけだから。
――撮り鉄ではないとおっしゃる理由は、全国の列車を撮りに行こうではなく、この地域撮ることがメインなんですね。だから郷土写真家。
第一只見川橋梁 夏の川霧(星賢孝氏撮影)
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