社員を昇進させる場合は、いきなり辞令を出すのではなく、まず「内示」として本人に打診したうえで、「辞令」により昇進を命じるという手順を踏むことがほとんどです。
昇進について企業の就業規則に定めがあり、総合職など将来の管理職候補として明らかにしたうえで社員を採用した場合、「昇進することがあり得る」という内容の労働契約を締結していると見なされます。そうしたケースでは、昇進の辞令を受けたとき、原則として、社員はそれを拒否することができないとされています。
内示は辞令と違い、正式な決定ではありませんが(企業が昇進予定を取り消すこともあり得る)、それでも正当な理由がない限り、社員が昇進を拒否することは難しいでしょう。
それにもかかわらず、社員が昇進を拒否した場合、企業側はどう対処すべきでしょうか。
辞令の発令は業務命令であるため、正当な理由なく拒否することは業務命令違反にあたり、懲戒処分の対象となり得ます。ただし、処分を行うには、次の要件を全て満たす必要があります。
社員が、特別な事情がなく昇進の内示を拒否し、その後、企業側からの複数回の説得や、社員の都合を考慮し業務に変更を加えた内容で協議しても応じない場合、辞令を発令後、懲戒処分扱いにすることが可能になります。
しかし、例えば、管理職になることにより、仕事上の責任が増し労働時間が長くなるのにもかかわらず、残業代の支払いがないため昇進前の給与額と変わらないとの理由で昇進を拒否した社員を懲戒処分にした場合、昇進後の労働条件が不利益変更にあたるとして、懲戒処分の扱いが社会通念上妥当とは認められず、無効になる可能性があります。
自身の健康上の理由や家族の育児や介護などにより、企業が求める管理職としての業務が全うできないとする場合、昇進の拒否は正当な理由になり得ます。
仮に、以上の要件を全て満たし、懲戒処分とすることが可能だとしても、企業が管理職に推挙するのはもともと優秀な社員です。懲戒処分にすることでその後の仕事に対してやる気をなくしてしまったり、ましてや退職に至った場合などは、企業にとっても貴重な人材の喪失につながります。
従って懲戒処分の判断は、慎重に行うべきでしょう。
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