社員に昇進を打診したら、本人が拒否──懲戒処分にできるのか?若手の8割は出世を望んでいない(5/5 ページ)

» 2022年07月20日 12時30分 公開
[企業実務]
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管理職に見合う役職手当とは

 管理職になることで増える業務量と給与額が見合わないというのも、社員が管理職になるメリットを感じられない大きな理由の1つです。これはすなわち、業務量や責任の重さに比べ、役職手当の額に不満を感じる社員が多いということにほかなりません。

 役職手当とは、企業内で特別な役割と権限、責任を与えられた社員に対して支給される手当のことをいいます。手当の名称は企業により「管理職手当」「役付手当」などとしている場合もあります。

【1】役職手当の決め方

 役職手当は毎月の給与支払い時に基本給にプラスして支給します。手当の額は役職ごとに一律で決まっていることが多く、上級管理職になるほど責任や権限が大きくなるため、役職手当の金額も高くなります。

 なお、役職手当を支給する場合は、支給対象や支給額の決定方法などについて、就業規則に明記する必要があります。

【2】役職手当を支給する意味

 管理職に役職手当を支給する目的は、主に2つあります。

  • (1)自分が担当する職場の業務管理や部下への指導など、本来の役職の役割にかかる業務への対価
  • (2)固定残業代としての支給(管理職に残業代は支給しないが、その代わりに役職手当で補う)

 このとき、役職手当のなかに固定残業代相当分を含む場合は、その内訳を明確にしなければなりません。例えば、役職手当を10万円とした場合、そのうち固定残業代は〇〇時間分○○円とする、などと決めておくことです。

 この取り決めがない限り、労働基準法での管理監督者に該当しない管理職が時間外労働や休日出勤をした場合、その分の残業代を支払うことになります。また、固定残業代で設定された時間をオーバーして時間外労働や休日出勤をした場合は、オーバーした分の残業代の支払いが必要です。

 また、管理監督者に該当する管理職の場合、時間外や休日労働に対して残業代を支払う義務はありませんが、時間外労働がある場合、あらかじめ役職の責務プラス時間外や休日労働時間数を勘案した役職手当の額を設定しておくことが必要になります。

昇進を拒否されないために企業が考えるべきこと

 企業が昇進させたい社員を選定する場合、本人の能力や実績などを基準に判断しますが、いくら有能な社員でも本人に昇進する気持ちがなかったり、昇進できない事情がある場合、拒否される可能性が高くなります。

 そのため、昇進意欲の有無や家庭環境などを事前に把握したうえで人選することが必要です。

 しかし、一方で、企業が人事を動かすのに、社員の都合ばかりを優先しては、その後の人事管理に支障をきたしてしまいます。そこで、企業が昇進を拒否されないような土壌をつくっておくことが重要になります。

 まず一番最初に行うことは、現在の管理職全員について、個々がどのような仕事をし、権限、待遇を得ているかを棚卸しすることです。チェックする項目は図表2を参考にしてください。

photo 図表2

 管理職の現状を客観的に見ることが必要な理由は、部下は自分の上司が仕事をしている姿や待遇をよく知っており、その様子で「部長のようになりたい」とか「課長のようにはなりたくない」などと判断することが多いからです。チェック後に問題箇所が見つかれば、改善を検討します。

 管理職になり、新たなやりがいを得ることで自分の成長を実感でき、経済的な面でもそれに見合う待遇があれば、昇進を拒否されるケースは多少なりとも減っていくと思われます。まずは、現在の管理職がいいお手本、目標になることが大切でしょう。

木村 政美(きむら・まさみ) きむらオフィス代表/社会保険労務士

旅行会社・セミナー運営会社・生命保険会社・人材派遣会社勤務を経て、2003年行政書士・社労士・FP事務所「きむらオフィス」開業。特に労務管理のコンサルティングと研修講師を専門とする。特技は剣道と古武術。

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