闇で流れる「ウナギロンダリング」 土用の丑の日に未来はあるか「土用の丑の日」に憂う(6/6 ページ)

» 2022年07月22日 10時59分 公開
[真田康弘ITmedia]
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ウナギと食文化を残すためにできること

 密輸、密漁、未報告の稚ウナギ由来のウナギの蒲焼が蔓延する現状、持続可能で合法なウナギが「土用の丑の日」に食べられるようになるためには、(1)「ウナギロンダリング」の解消、(2)科学的かつ実効的な国内的・国際的ウナギ資源管理、(3)一部の県に存在する、採捕された稚ウナギの流通を県内に限定している「ウナギ謎ルール」の解消、が求められる。

 まず「ウナギロンダリング」の解消のためには、「水産物流通適正化法」の下で稚ウナギを「特定第二種水産動植物」に指定し、由来の怪しい稚ウナギの輸入を阻止すればよいであろう。既に国内法は存在するのだから、あとは適用するのみだ。

 科学的かつ実効的なウナギ資源管理のためには、「2割削減」という科学的根拠に欠けたものではなく、資源評価に基づき客観的な指標に基づく規制が必要だ。そのためには、体系的な国内的・国際的モニタリング体制を整備して資源評価を行うとともに、これらに基づく客観的な数値目標を伴った資源管理を行うべきである。

 例えばEUでは、2007年に定められた理事会規則により、人為的な影響がない場合に存在したであろう量の40%の銀ウナギ(体色が黒ずんで金属光沢を放つ成熟した親ウナギ)が高い確率で生き残れるようにするという数値目標を定めた上で、上記目標を達成するために資源管理計画を作成することが加盟国に義務付けられている。このような例に倣うべきと考える。

 稚ウナギ採捕に関しては、18年に実施された漁業法の改正により、原則採捕が禁止されて例外的に「特別採捕」として認められるという枠組みから、23年12月までに「漁業」へと移行することが既に決定されている。「漁業」では取引は原則として自由だ。

 したがって「特別採捕」から「漁業」への移行に伴い、当然県内流通に限定するルールは廃止するべきである。市場価格の形成を阻害するのみならず稚ウナギの無報告採捕の元凶ともなっていることから鑑みても、その是正は急務だと考えられる。

 なお、宮崎県では既に昨2021年漁期より「うなぎ稚魚漁業」へと「漁業」に移行している(宮崎県漁業調整規則第4条(2))にもかかわらず、既存の「うなぎ稚魚の取扱いに関する条例」により県内流通の縛りが外れていない。こうしたルールは独占禁止法に抵触するのではないかとの指摘もある以上、後者の条例は改正するべきである。

 ウナギは養鰻業者など一部の当事者のものではなく、われわれがその恵みを享受する資源であり、適正な水準で保全すべき野生生物だ。ウナギを土用の丑の日に末永く食べ続けてゆくために、持続可能な利用のため、施策の一層の強化が、今必要とされている。

ウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」(写真提供:ゲッティイメージズ)

著者プロフィール

真田康弘(さなだ やすひろ)

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータ、早稲田大学日米研究機構客員次席研究員・研究院客員講師等を経て2017年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。


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