繰り返し指導しても、問題行動ばかりの部下──それでも、退職勧奨は違法なのか?弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/2 ページ)

» 2022年07月27日 11時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]
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仕事への適性や能力に欠ける従業員 どう対処すべきか

 仕事への適性や能力に欠ける従業員の対処に、悩みを抱えている企業は少なくないでしょう。会社から一方的に解雇すると、後から解雇の有効性を争われて裁判になることもあります。そこで、まずは自ら退職する気がないか、従業員と話し合いを持つこと(退職勧奨)が一般的に行われており、退職勧奨自体は、望ましい対応ともいえます。ただし、退職勧奨は、相手の意思があってのことです。強硬に進めようとすれば、本件のように、それ自体が違法なハラスメントになってしまうこともあるので注意が必要です。

 場合によっては、退職勧奨に従わない従業員を配置転換したくなることもあるでしょう。その場合も、本人の意思に反する配置転換をすると、経緯や新しい配置先の位置付けなどによっては「嫌がらせ目的」の配置換えと評価され、後から違法、無効と判断されることもあるので、注意しましょう。

 逆に、ミスの多い従業員から配置転換の希望が出されているケースでは、積極的に検討する必要があります。例として、ミスの多い従業員Cさんが、2人の上司から日常的に厳しい指導をされ、異動を希望したものの叶えられず、自殺したケースは裁判に発展しました。裁判所は「上司2人の指導はパワハラにはあたらないものの、会社の安全配慮義務違反はあった」として、会社に対し6000万円を超える損害賠償責任を認めました(徳島地裁18年7月9日判決)。

 この事例において、会社は、一時的にCさんの担当業務を軽減しましたが、それ以外に何の対応もしませんでした。裁判所は、Cさんの心身に過度の負担が生じないように、異動も含め、対応を検討すべきであったと判断しています。

 指導しても改善の余地がなく、資質や能力に疑いのある従業員については、適正な手続きを踏むことにより、法に違反することなく、配置転換や退職勧奨、場合によっては解雇が可能となることがあります。まずは、十分な指導や教育を続けた上で、本人の意思も確認しながら、慎重に対応しましょう。法的な判断が必要となることも多いので、早めに弁護士などの専門家に相談することも大切です。

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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