マーケティング・シンカ論

丸亀製麺、スシロー、サイゼリヤ 最も女性客の支持を集めたブランドとそのワケとは顧客体験価値ランキング2022

» 2022年07月28日 08時00分 公開

連載:顧客体験価値ランキング2022

インターブランドジャパンは今回4回目となる「顧客体験価値ランキング」を発表した。ランキング上位のブランドの特徴や顧客体験価値を上げるためにブランドが取り組んでいることを業界ごとに読み解いてく。

顧客体験価値ランキング1位は丸亀製麺 コカ・コーラ、Netflixは圏外から躍進(1回目)

サントリーや日清食品に学べ 顧客から選ばれる食品メーカーになるための3つのパターン(2回目)

 連載「顧客体験価値ランキング2022」の3回目となる今回は、私たちとって身近な「ファミリーレストラン業界」に焦点を当てて展開する。ここ数年、私たちの生活は大きく変わり、読者の皆さまの中にも「今まで気にも留めなかった身近なブランドとの接触が増えた」という、いわば行動変容を自覚されている方も少なくないだろう。筆者自身もその一人である。

 本回では顧客体験価値ランキング2022でトップ50にランクインした以下の3ブランドにフォーカスして展開していく。昨年からのランキング推移は以下の通りであり、本年度のランキングの上位全体像に大きな変化を与えた業界であるともいえる。

  • 丸亀製麺:本年度第1位(昨年16位)
  • スシロー:本年度第4位(昨年圏外)
  • サイゼリヤ:本年度第13位(昨年41位)

 彼らの急進の裏には何が隠されているのか? まずは業界全体視点から彼らの強さをひも解き、個別分析へとつなげながら考察を展開していきたい。

3ブランドに共通する強さはどこに?

 まずはファミリーレストラン業界としての強さを他業界と比較してみよう。ファミリーレストラン業界は、食品、専門店、旅行業界に続き上位4位に位置づけた。2021年度も業界として3位だったため上位であることには変わりがないが、昨年の業界トップはスターバックスであり、本年度は丸亀製麺がトップとなった。業界としては昨年に続く上位ではあるものの、けん引するブランドは大きく変化する結果となった。

本年度の業界別平均CXスコア

 顧客体験価値ランキングの体験価値の5要素のなかで、最も上昇値が高かったスコアは「EMPATHY:私の立場で考えてくれる」であった。

【注釈:体験価値の5要素とは、インターブランドジャパンが定義した顧客体験価値を決定する要素を指す。「RELEVANCE:私向けのものだと思える」「EASE:私にとって意味がある」「OPENNESS:オープンで正直である」「EMPATHY:私の立場で考えてくれる」「EMOTIONAL REWARDS:いい気分にさせてくれる」の5つから成る】

 では、この3ブランドはどうだろう。スシローが圏外からのランクインであるため上昇値での単純比較はできないものの、3ブランド平均で最も高かったスコアは「EASE:私にとって意味がある」であった。顧客のブランド体験において、コモディティーという意味合いの「日常」を超えた「付加価値=意味をもたらす存在」としての立ち位置をファミリーレストラン業界が顧客の中で確立しているサインともいえよう。

体験価値の5要素における3ブランドの平均スコア

強さを支える顧客は誰か?

 次に、本業界を俯瞰して強さをけん引している層に変化があるかどうかに注目してみたい。大別すると2つの動きが見えてきた。

1:支持している層は圧倒的に「現ユーザー層」の増加によるもの

 行動が大幅に制限されていた20年の市場環境から徐々に緩和されつつあることを考慮しても、3ブランドは顧客を呼び戻す「機動力」「環境対応力」を目に見える形で顧客に実感させる能力に長けていることが自由回答から読み取れる。

  • 以前はレーンの向かい側の人と暖簾越しだったため飛沫の心配をしていたが、アンケートに書いたら早速、間の仕切りがプラスチックになったので良かった(スシロー・現ユーザー・60代女性)
  • ご時世にあった販売方法に取り組んでいる(丸亀製麺・現ユーザー・30代女性)
  • コロナ禍で、最初にマスク&紙ナプキンの飛沫感染対策を打ち出してきたので(サイゼリヤ・現ユーザー・60代女性)
  • コロナの中、いち早く持ち帰りメニューを増やしたこと(スシロー・現ユーザー・40代男性)

2:著しい「女性の現ユーザーの増加」

 次に注目すべきは前年比における女性ユーザーの増加である。下図は男女別×ブランド体験別の前年比較であるが、過去ユーザーが大幅に減少する一方で現ユーザーが急増していることが分かる。

 ブランドのロイヤリティをマスレベルに確立していくためには、購買行動における意思決定関与割合とスピードから女性の認知獲得は必要不可欠であり、それは業界問わずいわれていることである。このことから、女性ユーザーの大幅な増加は、業界が上位の座を保持できている一つの要因と推測できる。この現象は果たして3ブランドに共通しているのだろうか?

3ブランド全体ベースに見る前年比回答者増減の内訳

3:女性からの圧倒的な支持を勝ち得たスシロー

 前年比の男女別ユーザー内訳をさらにひも解いてみる。ブランド体験の有無に大きな変化が見られなかった丸亀製麺とサイゼリヤと比較して、大きな特徴がみられたのがスシローである。業界全体を押し上げている女性の現ユーザーはスシローによるものであった。

3ブランド別のブランド体験増減内訳

 スシロー・女性現ユーザーからは下記のような意見が挙げられた。

  • ネタの鮮度が良く、寿司以外のメニューも豊富で食べ飽きない (60代女性)
  • 寿司だけでなく豊富なサイドメニューもそろえており、誰が来ても楽しめるように工夫しているのが感じられるから(30代女性)
  • 顧客を第一に考えているから原価割れができる(30代女性)
  • 子どもが喜ぶものがたくさんある(30代女性)
  • 清潔である。特にトイレはいつもきれいで安心しています(60代女性)

 これらの回答の根幹には「飽きない=お寿司だけじゃない」「子どもにやさしい=私だけじゃない」「顧客思い=一方通行じゃない」という顧客の感情がある。「選択肢があることを好む」「一点主義ではなく全体俯瞰でジャッジをする」傾向にある女性の心理を巧妙に捉えた結果であると感じられる。女性の求める「値段以上」の共感を呼ぶ戦略が功を奏した。

決して「コモディティー化=同質化」に陥らない各社戦略

 ではここからは、各社の個別戦略を考察してみたい。自由回答から3ブランドとも「ブランド独自のイメージ」を構築できている点が強みといえそうだ。顧客の頭の中に築かれているポジションをキーワードとして抽出してみると、以下のように明確に差異が見られた。

  • 丸亀製麺:オープンで庶民的、かつ品質に徹底したこだわり
  • スシロー:寿司だけでない豊富な品ぞろえによる楽しさ、徹底した顧客第一主義
  • サイゼリヤ:手ごろで気軽ながら本格的なおいしさと価格の完璧なバランス
3ブランド別:自由回答内キーワード分析 ※ワードクラウドという手法でテキストマイニング分析

 上図は3ブランドに対する「顧客の印象」を示している。この3ブランドの強さはこの顧客の頭の中が証明している。各ブランド間の「差」こそが、顧客にとっての「意味」であり、顧客がそのブランドを選び続ける理由となる。

「これでいい」から「これがいい」へ

 身近なカテゴリーかつアクセスしやすい価格帯のマスブランドは顧客との距離の近さから、「顧客のニーズに細かく答える×価格競争力を高める」という方程式で戦ってしまうことが多い。

 結果、待っているのは「○○でいい」という同質化現象である。そこからいかにしてブランド体験を通して「○○がいい」に変容させることができるか? が業界で頭一つ抜きんでるために求められる。

 差別化ポイントを顧客のブランド体験のなかに迅速に組み込んでいくことで日常体験の+αを実態化していく。教科書的には基本的なことかもしれないが、「言うは易し行うは難し」の世界であり、この3ブランドは見事に実現しているベストプラクティスといえるだろう。

著者紹介:佐藤紀子(さとうのりこ)

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インターブランドジャパン シニア・エグゼクティブ・ディレクター/ヘッドオブセールス・マーケティング。欧州投資銀行を経てフランスでMBA取得後、大手外資消費財企業で新規事業の立ち上げや経営企画、事業戦略改革など幅広い業務に参画。その後、大手日系消費財企業で主にアジア新興国市場におけるブランドのグローバル展開を経営・現場レベル双方で牽引していた経験を持つ。インターブランドでは不動産、IT、消費財、化粧品、小売りなど幅広いプロジェクトに携わり、事業会社における経験・知見に基づいたクライアント支援を行っている。


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