「お名残惜しい」と言葉で言うのは簡単です。長引きすぎた会だったとしても、お互いに「お名残惜しい」と言って別れてからホッとため息をもらしているかもしれないのが、世の常ではないでしょうか。
だからこそ、私たちは相手の行動から無意識に相手の本心を読みとっているのです。長電話を終えた後に、先方の電話の受話器が荒々しく置かれる音が聞かれたら、長く話しすぎたかと反省しますし、玄関を出たその背中でバタンとドアが閉められたら、招かれざる客だったと感じることでしょう。携帯や自動ドアの時代には無用の配慮でしょうか。
しかし、こうしたサインによって、これまでどんなに楽しく話をしていたとしても、最後の一瞬で台無しになってしまう訳です。気が付かないけれども、リモート時代にも、これまでの会話を台無しにするような何かはあるはずです。筆者はリモート会議で別のことを気に掛けながら司会をしていて、終了後に参加者の一人から「田中さんに指名してもらって発言したかったけれども、気付かれなかった」と言われて詫びたことがあります。
そんな失敗を繰り返さないためには、会合の後にうまくいったかどうかを振り返ってみることです。リモート時代には、商談や打ち合わせに「帰り道」がない分、省みる時間が少なくなっている人も多いかもしれません。反省する時間を直弼がどれだけ大切にしていたかを確認してきましょう。
直弼は反省のために、心静かに茶席に戻って炉前に座り、客と今日の茶会に思いをはせて一服を点てたと説かれます。しかし、本文で直弼は、「或いは独服をもいたす事」と書いています。お茶を点てることは、必須ではないのです。
「打ち語らうものは、釜一つの外は何もない」と直弼は、釜を話し相手に見立てています。しかし、実際は自問自答しているわけで、お茶を点てても、省みる時間をとらなければ、独座観念の教えに従ったことにはなりません。さらに、茶会を終えての自問自答を通じて直弼は何を考えていたのかと想像を巡らせてみたいと思います。
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