次の経済的恩恵とはインバウンド、つまり訪日観光客による経済効果だった。しかし、新型コロナ対策の一環として外国人観戦客の受け入れを断念したことで、それもほぼゼロとなった。組織委はチケット収入として総額900億円程度を見込んでいたが、英ロイター通信の報道によれば、このうち海外向けに販売した60万枚が払い戻しの対象となったという。
経済的な視点でいえば、損失はチケットのキャンセルだけにとどまらない。野村総合研究所は訪日観光客が宿泊予定だった宿泊施設や、利用予定だった飲食店・交通機関も含めると、インバウンドだけで最大2000億円の損失が生じると試算している。
そして文化的財産に分類されるであろう「五輪開催によって日本のスポーツ人口が増える」などという点も、開催決定前と比べて市民のスポーツ実施率は増えていないことが、東京大学大学院医学研究科の研究チームの分析で分かった。
組織委の「アクション&レガシーレポート」では、日本人のスポーツ実施率は16年の42.5%から20年には59.9%に向上したと報告されていたが、分析を担当した鎌田真光講師らは「この評価に用いられた調査では、2017年から階段昇降が追加されるなど、算出方法が変更されていることから、経年変化の分析として適切ではない」と指摘している。
東京五輪はコロナの亜種を世界中に拡散したとの指摘もある。東京大学医科学研究所付属ヒトゲノム解析センターの井元清哉教授が、東京五輪が開催された21年7月から22年1月までの世界中のウイルス遺伝情報を解析した結果、東京五輪開催時に第5波を迎えていた日本で変異したデルタ株の亜種「AY.29」を、アメリカなど20の国や地域で確認したと発表した。
亜種の拡散可能性についてはすでに開催前から危惧されていたが、開催を強行したことで、それが現実のものとなってしまったのである。まさに「負のレガシー」そのものといえるのではないか。
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