閉幕から1年、東京オリンピック・パラリンピック(以下 東京五輪)が再び大きくクローズアップされている。しかし、それは五輪開催時にメディアが喧伝(けんでん)した良い意味での「レガシー」(遺産)ではなく、東京五輪組織委員会(以下 組織委)元理事の、スポンサー選定を巡る贈収賄疑惑によってである。東京地検特捜部は8月17日、組織委元理事の高橋治之氏や、AOKIホールディングスの青木拡憲元会長ら4人を受託収賄や贈賄の疑いで逮捕。AOKIは「心よりおわびする」と謝罪した一方、逮捕については「捜査中」として、コメントは差し控えた。
もともと五輪反対派であった私にとって、現在報じられている元電通の高橋治之氏の贈収賄疑惑などは、まったく驚くには値しない案件だった。むしろ、五輪やサッカーW杯などのメガスポーツビジネスを少しでも知る者にとって、彼のダーティーさは、業界内では以前から有名であり、招致時の票買収疑惑と相まって、むしろ捜査は遅すぎたと感じているくらいである。
だが五輪にまつわる問題は非常に広範囲に及んでいて、高橋氏の疑惑は、そのほんの一部にすぎない。2021年12月に発売した拙著『東京五輪の大罪』(ちくま新書)で、私は以下の問題点を挙げていた。
(1)招致活動における2億円の買収疑惑
(2)招致活動での「福島原発はアンダーコントロール」との虚偽発言
(3)招致プレゼンでの「7月の東京は温暖な気候」というウソ
(4)五輪エンブレム盗作問題
(5)「五輪史上最もコンパクトな五輪」も、予算の肥大化
(6)新国立競技場建設を巡る混乱と建設費用の増大
(7)神宮再開発で都営霞ヶ丘団地住民200世帯の強制退去
(8)11万人以上の無償ボランティア搾取
(9)人件費や資材高騰で「復興五輪」の妨げに
(10)選手村用地の不当廉売疑惑
(11)酷暑下の開催で選手やボランティアに熱中症の危険性大
(1)は偶然だが高橋元理事が関係している。招致活動中にアフリカ諸国の票を買収するために、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和会長(当時)が2億円の資金を海外のコンサルタント会社に送金していた件である。
竹田氏は賄賂認識を否定したが、フランス検察の捜査に苦慮してJOC会長を辞任した。その竹田氏に送金先を指示していたのが、冒頭の高橋元組織委理事(招致時は招致委)と報道されている。本稿では東京五輪のさまざまな問題点を、3回にわたって解説する。
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