A: 身元保証には、(1)従業員が会社に対し損害を発生させた場合には、その損害を補填するという金銭賠償の機能があります。さらに今日では、(2)近時増加しているメンタルヘルス不調者対応も念頭に、身元保証人の協力を得て解決を図ることも念頭におくことがあります。
(1)の観点からは、賠償義務を履行できる「経済的に独立した者」であることが適当です。また、(2)の観点から、親族のほか、これに代わる近親者であることが適当な場合も多くあります。
最終的には、企業において適当と認める者を身元保証人とすることができるようにするとよいでしょう(図表2)。
なお、実際には、外国人採用の場合や家庭の事情などから、規定通り身元保証人を立てられない場合もあります。そのような場合は、会社の判断で、身元保証人が不在または1人とすることを認めることはできます。
A: 身元保証書の提出を要することおよびそれに違反した場合は採用を取り消すことが就業規則に明記されている場合は、採用を取り消すことも可能な場合があります。
ただし、採用取り消しが有効となるためには、労働者の職務内容から身元保証契約の必要度が高い場合で、労働者が正当な理由なく提出を拒むような場合に限られると考えられます。
従って、採用取り消し可能との就業規則の文言に基づきつつも、合意退職による解決が望ましいと考えます。
A: 身元保証人が死亡した場合、身元保証人の地位は相続されません(大審院昭和2年7月4日判決)。
ただし、亡くなった時点ですでに発生していた具体的な身元保証債務は相続されます。
例えば、従業員が会社に損害を発生させた後に、身元保証人である従業員の父が死亡した場合、その相続人である従業員の母は、すでに発生した損害に関する具体的な保証債務は相続しますが、身元保証人としての地位は引き継ぎません。
また、身元保証人が死亡したことにより、身元保証人がいなくなります。それに対し、会社は身元保証人を立てることを就業規則などで雇用契約上の義務としている場合は、従業員に対し、新たな身元保証人を立てることを要求できます。
その場合、従業員が新たな身元保証人を立てなかったことを理由に解雇できるかが問題となりますが、新たな身元保証人を立てられないことをもって職務への不適性などの解雇理由とすることは難しいので、基本的には解雇はできないと考えられます。
A: 前述したポイントを盛り込んだ書式としてください(図表3)。
* * *
前記の通り、身元保証契約によって、身元保証人に対し、必ずしも全損害について責任追及できるわけではありません。従業員が損害を発生させる場合、会社の監督責任が同時に生じている場合も少なくありません。
そこで、身元保証契約の運用については、それに依存することなく、損害発生を防止する監督システムを事前に構築し、運営していくことが重要です。
吉村労働再生法律事務所/弁護士
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