クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型クラウンの“仕上がり”はどうなのか、チェックした池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

» 2022年10月11日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

エンジニアの「よくぞ言ってくれました」感

 まずこの前後編原稿に何度もでてくる「スペース」の話を考えれば、FRレイアウトはいかにも効率が悪い。だから走行性能を最優先項目のひとつにしたクラウン・セダンとしてFRシャシーモデルを残し、ほかはFFベースの室内空間構築に有利なシャシーを使用することにした。

 ただし、スペースだけの話でもないのだ。トヨタはここ最近、AWDの駆動力制御技術による運動性能の向上と、乗り心地の改善に大きな伸びしろを見出している。クルマの姿勢や荷重配分を駆動力で積極的にコントロールしてやることで、従来になかった新しい乗り味を手に入れつつある。それをクラウンに投入したかったのである。だからクラウンは全車AWDとなっている。

クラウンは全車AWDを採用

 成り立ちを見ると、クラウン・クロスオーバーは、GA-Kプラットフォームに、ルーフ高めのボディを合わせ、従来より空間重視に振ったセダンである。ルーフ高を上げたことに伴って、シート座面の高さも変えた。ここはアドバンテージの稼ぎどころのひとつだ。ミニバンはどうしても運転席によじ登る感覚がある。一方で従来のセダンは茶室ばりに頭をかがめてしゃがみ込んでやらないと乗り降りできない。

 クルマの脇に立った姿勢から無理なく座れる高さのシートにすることで、ごく自然にユニバーサルデザインを成立させた。高齢者でも乗り降りし易いだけでなく、全世代にとって使い易い。ここはポイントである。

 乗り込んだ後がどうかと言えば、高い位置に座っている感覚は皆無であり、そこは従来からのセダンの感覚と何ら齟齬(そご)をきたさない。シートは座った瞬間から良い。先代のときにかなり改善されていたものの、表皮の張りのコントロールはいまひとつで、引っつれてハンモック状態になっており、シート全体の設計を生かし切れていなかった。

 新型では生地と生地の縫い合わせを工夫して、人が乗らないときと乗ったときの生地の引っぱられ具合を合わせ込んできた。それを指摘したときのエンジニアの「よくぞ言ってくれました」感は、ちょっと微笑ましかったが、一生懸命「もっといいクルマ」をつくろうとしている感じが伝わってきた。

 ペダルやハンドルのインターフェイスはさすがにこのクラスになれば、問題なし。車内空間における目の収まり位置も適正で、すっと乗ってすっと自然な位置でポジションが取れる。

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