度を超えたクレームを「丸く収めたい」上司、部下に謝罪を強要──カスハラが生んだパワハラに有罪判決弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(1/3 ページ)

» 2022年10月25日 13時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

連載:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。

 顧客や取引先から不当な要求やクレームをつけられる「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。企業は対応を誤ると、裁判に発展することがあります。今回は、カスハラが訴訟に至ったケースをご紹介し、どのような場合に訴訟に至る傾向があるのか分析します。

 最初に紹介するのは公立小学校で起きた事例ですが、一般企業でも同様のことが起こらないとはいえません。企業が取りうる対策についても検討します。

保護者とのトラブルを巡り、校長が教諭に謝罪させた事例

 公立小学校に勤務していたA教諭は、自身が担任する児童の家を訪問した際、児童の飼い犬に脚をかまれ、加療約2週間のけがを負いました。

 法的には、A教諭は、児童の家庭に対し、治療費などの損害賠償を求めることができます。しかし、A教諭は治療費の支払いを申し出た児童の父母に対し、「お気持ちだけで十分です」と辞退しました。

 なお、A教諭は、児童の母に対し、ペット賠償責任の保険に加入しているか確認し、入っていないことが分かると、今後同じような事故が起きた場合の備えとして、児童の母方の祖父が保険に詳しいと思ったことから、そうした保険について「ご相談なさってみてはいかがでしょうか」などと話しました。

 その翌日、児童の父から学校に連絡があり、「昨夜、補償不要で話は収まったが、Aはまだ補償を求めている。校長を交え、Aと話がしたい」と言われました。児童の父と祖父、B校長とA教諭が集まった面談の席で、祖父は、「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」などと言って、A教諭を非難し、「強い言葉を娘(児童の母)に言ったことを謝ってほしい」などとして謝罪を求め、父も同調しました。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 B校長は、A教諭の児童の母に対する発言に行き過ぎた言葉があったとして、A教諭に対し、その場で、児童の父と祖父に謝罪するよう求め、A教諭は床に膝をつき、頭を下げて謝罪しました。児童の父と祖父が帰った後、B校長は、明日の朝、児童の母にも謝罪しにいくよう指示しました。

 その後、A教諭は、B校長からパワハラを受けたせいでうつ病に罹患し、休業することになったとして、市や県に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。

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