NTT「初任給3万アップ」が、日本の「賃上げ」に繋がらないこれだけの理由スピン経済の歩き方(2/7 ページ)

» 2022年11月22日 11時01分 公開
[窪田順生ITmedia]

「格差」が広がるという指摘

 一方、この人事改革によって「格差」が広がるという指摘もある。『〈現行の役職は廃止します〉月21万円の賃金差も…NTTグループ「人事改革」内部資料入手』(文春オンライン 11月10日)によれば、評価グレードの高い社員と、評価が最下位の社員の給与格差は月20万7620円にもなる。つまり、ほんの一握りの「能力が高い人材」にとっては賃上げだが、能力がそこそこの人は実質的に「賃下げ」になるというのだ。

 ただ、いずれにしても、このようにNTTが「カネで能力の高い人をつなぎ止める」という方向へ大きく舵(かじ)を切ったことが、日本全体の「賃上げ」につながっていくと見る専門家も少なくない。

多くのNTT社員がGAFAに引き抜かれている(提供:ゲッティイメージズ)

 ご存じのように、NTTは日本の基幹産業を代表する企業で、その働き方や人事制度、そして給料は多くの大企業のベンチマークとされてきたという事実がある。実際、NTTがジョブ型雇用を導入したところ、それを受けて他の大企業でも今、続々とジョブ型雇用へと舵を切っている。

 つまり、NTTが外資系に「能力の高い人材」を奪われないよう、一部の人とはいえ賃上げをしたように、他の大企業もNTTに人材を取られないようにその動きに追随せざるを得なくなる。そういう大企業が増えていけば、全国に広まって、「賃上げドミノ」が起きるのではないか、と一部の有識者が言っているのだ。

 ただ、厳しいことを言わせていただくと、それはかなり能天気というか、甘い見通しだ。この先、NTTを「手本」にして大企業の賃上げが進んだところで、日本全体の賃金にはほとんど大きな影響がない。

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