しかし、これもイメージの一人歩きだ。
『中小企業白書2020年版』の「受託事業者の現状」を見ると、中小企業の中に、下請法に基づく受託取引のある事業者、「下請け企業」を調査したところ、なんと5%程度しかいなかったのだ。
もちろん、これは業種でバラツキがある。「情報通信業」が最も多く36.2%、次いで「製造業」が17.4%、「運輸業、郵便業」が15.2%、「卸売業」(3.1%)や「小売業」(1.0%)と続く。
「下請け」が問題になっているIT業界でも、6割強は下請けではない。製造業にいたっては8割以上が下請けと無縁で、生産性が低いと言われている小売・サービス業などほとんどない。われわれはドラマや小説のイメージから「中小企業=下請け」と勝手に思い込んでいるが、実はそれは「多数派」の話ではないのだ。
つまり、何かしら新しいルールを整備して、大企業が中小企業を搾取させないようにしたところで、95%の中小企業にはほとんど影響がないのだ。
しかし、「最低賃金の引き上げ」はそういう不公平・不平等なことはない。労働者を使うすべての企業が対象なので、100%の中小企業に影響がある。それはつまり、日本の99.7%の企業に影響するということなので、日本全体の賃上げ効果が期待できるのだ。
ただ、残念ながら、世界では主流の経済政策である「最低賃金の引き上げ」は、日本では唱えるだけでキワモノ扱いで、「弱者切り捨ての新自由主義者だ」「左翼だ」とイデオロギーを超越してバッシングされる。
「最低賃金を引き上げたら、日本には倒産と失業者があふれておしまいだ」「中小企業をいじめるのではなく、もうかっている大企業をもっと締め付けるべきだ」というイメージが一人歩きしたような話が圧倒的に多く広まっているからだ。
本来は、政治家がリーダーシップを発揮して、こういう「ふわっ」とした話に流されず、客観的なデータに基づいた経済政策を進めていかなければいけない。
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