なぜそんなことが断言できるのかというと、日本の産業構造的にあり得ないからだ。
日本には、約359万の企業がある。では、その中でNTTのような大企業はどれくらいなのかというと約1.1万社で、0.3%に満たない。では、残りの358万社は何かという中小企業、しかもその中で305万社は、社員がわずか数名という「小規模事業者」である。
さらに、日本の企業には約4679万人の従業者がいる。その中でNTTのような大企業で働いているのはどれくらいなのかというと約1459万人で、31.2%を占めている。ここまで言えば、想像がつくように、残りの7割、約3220万人は中小企業で働いているのだ。
さて、こういう産業構造を踏まえて、大企業が「能力の高い人材」を賃上げすることによって、日本全体に「賃上げドミノ」が起きるのか想像していただきたい。
確かに、NTTに人材を奪われないように大企業の中には賃上げの動きが波及するかもしれない。大企業に勤める「能力がそこそこの社員」は、新しい評価制度で実質的な賃下げになることもあるだろう。とはいってもそれは、わずか1.1万社で日本の労働者の3割に限定された話だ。
大企業と人材の争奪戦をしていない中小企業358万社は、大企業がいくら給料を上げても別世界の話なので賃上げに動かない。つまり、そこで働いている労働者の7割の賃金は今とそれほど変化がないということだ。
3割の労働者の給料が上がっても、7割が「ひどい低賃金」で働いていたら、これを全体にならせば「一般的な低賃金」になる。これが「日本の賃金」が30年ほとんど上がっていない最大の理由だ。
われわれはNTTやトヨタ自動車のような巨大企業が何かアクションを起こすと、それが日本全体の経済にも大きなインパクトを与えると考えがちだが、それはイメージが勝手に一人歩きをしているだけだ。実際は企業の99.7%を占めて、労働者の7割が働いている中小企業のアクションが、日本経済に及ぼすインパクトのほうがはるかに大きいのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング