3つのよくある残業対策、小手先の対応になっていないか? その効果と落とし穴残業代を適切に管理できている?(2/4 ページ)

» 2022年12月01日 08時00分 公開

よくある残業代対策と課題

 残業代を適正に管理するには、生産性を高めて労働時間を減らすのが本質的な対策ですが、それと合わせて制度や仕組みによるアプローチがあります。よく採用されている3つの方法の有効性と課題について検証していきましょう。

(1)管理監督者として残業代の支払い対象外とする

 「管理職には残業はつかない」という話がありますが、これは本当でしょうか? 労働基準法には以下の定めがあります。

(労働時間等に関する規定の適用除外)

第四十一条 (前略)労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 労働時間に関する規程は、監督若しくは管理の地位にある者は適用されないため、会社が管理職として処遇している従業員がこれに該当すれば残業代の支払いは不要になります。蛇足ですが、除外されるのは時間外労働、休日労働のみで、深夜労働手当は管理職であっても支払いが必要です。

 さて、この条文を根拠に多くの企業において、役職者などを管理職と位置づけて管理職手当を支給し、代わりに残業代は支払わないという運用がなされていました。この慣行に対して待ったをかけたのが大手ハンバーガーチェーンの裁判です。(平成20年1月28日 東京地裁)

 この裁判では、会社側は“店長は残業代の支払いが不要な労働基準法上の管理職だ”と主張したのに対して、従業員側は“店長は労働基準法上の管理職ではないので残業代の支払いが必要だ”と主張して争いました。

 この会社の店長の平均年収は700万円を超え、業界内ではかなり高い水準にあったため、大いに注目を集めましたが、裁判所は店長の役割、勤務実態、処遇などから管理職ではないという判断を下し、残業代の支払いを命じました。

 この裁判をきっかけに「名ばかり管理職」という言葉が広く認知されるようになり、行政からも労働基準法の監督若しくは管理の地位にある者について以下の解説がなされています。

・経営者と一体的な立場で仕事をしている

管理監督者といっても取締役のような役員とは違い、労働者であることには変わりありません。しかし、管理監督者は経営者に代わって同じ立場で仕事をする必要があり、その重要性や特殊性から労働時間等の制限を受けません。経営者と一体的な立場で仕事をするためには、経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限を委ねられている必要があります。

一方、「課長」「リーダー」といった肩書きであっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事案について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような場合は管理監督者には含まれません。

また、営業上の理由から、セールス担当社員全員に「課長」といった肩書きをつけているケースも見られますが、権限と実態がなければ管理監督者とは言えません。

 

・出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない

管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあり、また労務管理においても一般の従業員と異なる立場に立つ必要があります。このような事情から、管理監督者の出退勤時間は厳密に決めることはできません。また、勤務時間の制限がない以上、出退勤時間も自らの裁量に任されていることが必要です。遅刻や早退をしたら、給料や賞与が減らされるような場合は管理監督者とは言えません。

 

・その地位にふさわしい待遇がなされている

管理監督者はその職務の重要性から、地位、給料その他の待遇において一般社員と比較して相応の待遇がなされていることは当然といえるでしょう。特に「スタッフ職」と呼ばれる人事、総務、企画、財務部門において経営者と一体となって判断を行うような専門職については、他の部門の管理監督者と同等の地位、給与等の待遇がなされていることが必要です。

参照:「東京労働局 しっかりマスター労働基準法―管理監督者編―」


 よく就業規則で課長以上は管理職などと役職名とひも付けて規定しているケースがありますが、厳密には個別に上記の着眼点で確認する必要があります。つまり、営業課長は労働基準法上の管理職だが人事課長は管理職でないという判断もあり得るということです。

 管理職であることを否定されたときに発生する未払い残業代は、労働時間管理を労働者本人に任せて会社が関与していないこと、賃金水準が他の労働者よりも高いことから、かなりの高額になるケースが少なくありません。

 労働基準法の「監督若しくは管理の地位にある者」は、会社内で使う管理職という言葉よりも、極めて狭い範囲のものですから、安易に残業代対策として活用するのは極めてリスキーと言えるでしょう。

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