3つのよくある残業対策、小手先の対応になっていないか? その効果と落とし穴残業代を適切に管理できている?(4/4 ページ)

» 2022年12月01日 08時00分 公開
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(3)残業時間の上限枠を設定する

 労働時間の把握は、労働安全衛生法の労働安全衛生規則 第52条7の3により「(前略)タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータなど電子計算機の使用時間の記録の客観的な方法その他の適切な方法とする」と定められており、これにより、多くの会社ではタイムカードが活用されています。

 残業代の計算は、タイムカード上の数字をそのまま活用するのが原則ですが、好き勝手に残業をされてしまうと会社としても適正なコスト管理ができません。30時間などと残業時間の上限を定め、あとは労働者自身に任せ、それを超過して残業した場合は人事評価をマイナスにするといった運用をしているケースがあります。

 上限目標の設定自体は生産性の向上に有効ですが、現実と乖離(かいり)した基準を設定した場合には問題が発生します。厚生労働省が毎年公表する「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」でも勤怠システムの打刻と実際の残業時間が合っていないケースが紹介されています。

労働者が残業時間を過少申請していた、企業はどうなる?(画像:厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」)

 この事例は、労働者自らが評価を気にして残業時間を過少申告したが、パソコンに残る使用記録や会社のセキュリティーをセットした時間との乖離があり、それに対する指導が行われたものです。労働基準監督署へ情報が寄せられたことによる調査ですから、本人以外の家族などからの情報だったのかもしれません。

 勤怠システムを導入して、その通り残業代を支払っていれば問題ないと考えがちですが、大きな組織や事業所が分散する会社であればそのデータが実態を示しているかについて定期的にメスを入れる必要があります。パソコンの操作履歴やメールの送受信時刻など客観的なデータを定期的に確認する仕組みを作りましょう。

 残業代を不正に抑制する行為は、そもそも法違反ですが、それ以外にも事業の成長という観点で優秀な人材の離職率を高めたり、また残業の実態に目を背けることで生産性向上という重要な取り組みのきっかけを失ったりすることにもつながります。

 ある経営者が「残業代をちゃんと払ったら会社がもたない」と発言したというニュースがかつてありましたが、残業代をちゃんと払って成り立つビジネスモデルを構築するという発想がこれからの時代は必要でしょう。

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