企業の株式を購入する特典として、日本には株主優待がある。株主優待として企業から贈られるQUOカードや割引券、お米といった品々で生活を営む「優待族」もテレビ番組の出演をきっかけに有名になっていった。
株主優待は日本で独自に広がりを見せた制度であり、海外の企業にとっては一般的でない仕組みである。株主優待を通じて株主に自社のサービスや商品の質を確認してもらったり、株式を継続的に保有してもらったりする点で企業側にもメリットのある取り組みであるが、昨今その制度の存続が危ぶまれている。
2022年は優待銘柄として有名であったJTや丸井グループ、オリックスなど50社を超える多くの企業で株主優待の廃止がアナウンスされた。また、廃止とはいかずとも、優待の条件を厳しくするケースも増加している。一体なぜ、株主優待の撤退ラッシュが続いているのだろうか。
個人投資家にとっては魅力的な制度ともいえる株主優待制度。しかし、これを嫌がる投資家も決して少なくないという背景をまずは押さえておきたい。
実は、株主優待は投資信託の運用会社や資産運用ファンド、法人の機関投資家という大口の株主ほど煩わしい制度となっている。というのも、株主優待品は優待の条件を満たしている限り、これらの法人にも送付される。つまり、優待シーズンになると、証券会社や金融機関宛に大量のお米やQUOカード、そしてサービスの割引券が届くのだ。投資信託を購入した際に株主優待が配送されないのも、投資信託で購入した株式の株主優待物を受け取る権利は、株式の名義人である金融機関に帰属するためだ。
では、投資信託を購入すると、株主優待分だけ損をするかというと、必ずしもそうではなく、金券や人気の優待券といった換金性の高い品物や、受益者利益のために必要と判断されるものは、投資信託財産に繰り入れるような処理を行うことが一般的だ。ちなみに、筆者が見聞きした経験上では、生鮮食品など賞味期限が短く、換金性の低い株主優待は、やむをえず従業員に配られるケースも少なくないようだ。
確かに、機関投資家にとっては毎月一定のタイミングで、本来の運用業務とは関係のない金券や優待券の換金作業に時間を費やすくらいであれば、現金で付与される配当金にしてくれた方が何倍もありがたいはず。また個人投資家の中にも、例えば「女性向けの製品を提供する企業の業績に注目して投資した男性投資家に、女性向け製品の割引優待券が届く」といったように、使う機会がない株主優待が届くことを嫌う人も少なくないという。
現に、2月に株主優待制度の廃止を発表した日本たばこ産業(JT)は、「この度、株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から慎重に検討を重ねました結果、配当等による利益還元に集約することとし、株主優待制度を廃止することといたしました」と発表しており、優待がなくなることで配当金での還元率がより向上することとなった。
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