星野リゾートはなぜ「苔」に注目したのか ヒット企画の裏側に“コケ”ない思考法水曜日に「へえ」な話(1/4 ページ)

» 2022年12月14日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

 えっ、苔って、たくさんの種類があるの?――。

 植物に詳しい人であれば「そんなこと当たり前でしょ」と思われたかもしれないが、筆者にとって「苔は苔。一種類」である。ちょっと調べたところ、「キダチヒラゴケ」「アツブサゴケ」といった名称のモノがでてきたが、どんな特徴があるのかも知らないし、どこで生息しているのかもよく知らない。

 筆者と同じような感覚をもっている人が多いと思うが(たぶん)、苔をじっくり観察するツアーを始めたところ「オレも、オレも」「ワタシも、ワタシも」といった感じで参加者が増えているホテルがある。青森県にある「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」だ。

「苔さんぽ」の企画がヒット
ルーペを使って苔を観察

 奥入瀬渓流に行ったことがない人もいると思うので、簡単に紹介しよう。奥入瀬渓流とは、山手線ほどの広さがある十和田湖から流れ出る川の上流14キロほどを指す。特別保護地区などに指定されていて、カツラやブナなどの樹木、カモシカやテンなどの動物が生息している。渓流沿いには遊歩道が整備されていて、観光客は自然を楽しむためにテクテクと歩いているのだ。

 地面や岩の上などを覆っている苔を見るために、多くの人がここを訪れているわけだが、日本で苔は何種類あるのかご存じだろうか。答えは、約1800種類。そのうちの約300種類が奥入瀬渓流に生息しているという。

 11月末、筆者は現地を取材したところ、ルーペを片手にミクロの世界を楽しむツアー客たちがいた。機敏に動き回る人はいなくて、少し歩いて触って、少し歩いてルーペを覗いて。通常30分ほどで歩ける1キロコースを2時間30分ほどかけて、じっくり観察するのだ。

 それにしてもなぜ奥入瀬渓流ホテルは、馴染みのない「苔さんぽ」なるものを始めたのだろうか。きっかけは、2011年にさかのぼる。

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