星野リゾートはなぜ「苔」に注目したのか ヒット企画の裏側に“コケ”ない思考法水曜日に「へえ」な話(3/4 ページ)

» 2022年12月14日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

「氷瀑ツアー」の企画に大反対

 ホテルが休業している間、スタッフはどうしていたのだろうか。全国にある星野リゾートの施設に一時的に赴任。家族と一緒に暮らしている人は、離れ離れの生活を送っていたのだ。

 スタッフとしては、「できれば奥入瀬渓流ホテルで働きたい」という想いがある。しかし、だ。雪はたくさん降るのに、スキーを楽しむ施設がない。となると、やはり収益化は難しい。

滝や湧き水が凍った「氷瀑」
氷瀑ライトアップツアー

 冬にお客を増やすには、どうすればいいのだろうか。スタッフは「なにかできないか」と何度も議論を重ねていく中で、「氷瀑」に目をつける。「苔さんぽ」のように、冬は「氷瀑ツアーを企画すれば、たくさんの人を集めることができるではないか」と社内でプレゼンしたものの、またも反対の声ばかり。いや、苔のときが「反対」であれば、氷瀑のときは「大反対」である。なぜか。

 氷瀑ツアーを始めるとなると、ホテルを稼働させなければいけない。全187室あるので、対応するためにはそれなりのスタッフが必要になる。投資に見合った効果が求められるが、企画がスベってしまうと、大きな損失を抱えることになる。代表を務める星野佳路さんも、この企画には懐疑的だったそうだが、最終的には現地スタッフの熱い想いをくんでスタートすることに。

奥入瀬渓流の氷瀑

 奥入瀬渓流は国立公園特別保護区でもあるので、照明機材を設置することはできない。いち企業だけで実現することは難しく、十和田市の協力のもと、投光機を積んだクルマを使ってライティングすることに。

 官民連携のもとに誕生したこのツアーは、どのような反響があったのだろうか。企画は17年にスタートして、これまでの累計参加者は1万5000人を超えた。先ほど紹介したように、このツアーが始まる以前の稼働率は0%だったわけだが、21年には80%ほどに。自ら仕事を創り出して、それによって集客力を高めたというわけだ。

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