東日本大震災の影響を受けたこともあって、奥入瀬渓流ホテルは集客を図るために新たなコンテンツを模索していた。「あれはできないか」「いやいや、こっちのほうがおもしろいよ」といった議論を交わしていく中で、毎日のように探索しているネイチャーガイドはこのような提案をした。「苔に注目して、散策するのはどうだろうか」と。
一般的に、ホテルが用意している「アクティビティ」といえば、積極的に活動するものが多いイメージがあるが、「苔さんぽ」については真逆。ゆっくり歩いて、立ち止まり、またゆっくり歩いて、立ち止まり。ルーペを片手に、苔にどんどん近づいていく。そんなことを繰り替えすので、前になかなか進めない企画なのだ。
ネイチャーガイドが提案した企画を聞いたとき、周囲はどのような反応を示したのだろうか。「反対」である。
「苔を見るだけで、集客につながるとは思えない」といった声だらけ。筆者もその場にいたら「そーだ、そーだ」と反対派に加わっていたかもしれないが、このガイドの熱意に押される形で、13年に始めてみた。結果はどうだったのか。年間数百人が参加して、コロナ前の19年には739人がルーペを片手に持った。
宿泊数がどのくらい伸びたのか。その関係性を分析することは難しいが、「苔さんぽ」を始めた13年と比べて、宿泊者数は2ケタペースで伸びている。17年は+15%、18年は+14%、19年は+14%という結果に。「めでたし、めでたし」である。
さて、奥入瀬渓流ホテルには、もう1つの目玉企画がある。「氷瀑(ひょうばく)」だ。氷瀑とは、厳しい寒さで凍結した滝のこと。奥入瀬渓流には14本の滝が点在しているので、冬になると大小さまざまな氷瀑を見ることができるのだ。
ただ、厳しい寒さと大雪の影響で、観光客は他のシーズンに比べて3分の1ほどに減少する。となると、ホテルも大きな影響を受ける。宿泊者数が大幅に落ち込むので、売り上げも利益もどんどん減ってしまう。赤字に陥ることも考えられるので、ホテルは11月下旬から4月までの間は休業せざるを得ない状況が続いていたのだ。
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