280円から298円と18円の値上げで、顧客にそっぽを向かれて激減したわけだから、その約2倍の39円も値上げをすると、鳥貴族には閑古鳥が鳴いて、バタバタと店が潰れていなければおかしくはない。実際、18年や19年ごろ、著名なコンサルタントたちは口をそろえて、「このまま値上げ路線を続けていたら取り返しのつかないことになる」などと警鐘を鳴らしていた。
ただ、現実はまったく逆だ。多くの居酒屋チェーンがコロナ禍で厳しい戦いを強いられる中でも、鳥貴族は4月の値上げをものともせず、順調に回復傾向を維持している。22年9月に発表された22年7月期決算では、コロナ禍後で初の四半期営業黒字を計上した。
なぜこんなことが起きるのか。実は理由はいたってシンプルだ。18年ごろ「社会人の一般常識」のように語られていた、「280円均一で成長した鳥貴族の値上げは客離れを招いて大失敗に終わりました」というのが、実は大いなる誤解で、データ上で「たまたまそう見えただけ」だったのだ。
「会社四季報ONLINE」の『鳥貴族HD、大倉社長が明かす「7%値上げ」の本当の目的 「2017年の値上げも成功だった」』という記事を読んでみると、鳥貴族が客離れの原因を調査・分析したところ、「価格改定をしたから鳥貴族に行かなくなった」という顧客は実は少なかったそうだ。さらに長期的に見れば、客離れは「値上げ」の前から始まっていたという。同社の大倉忠司社長も「日経新聞」でこう述べている。
「実際には(自社の店舗同士で顧客を取り合う)カニバリ(共食い)などの出店戦略ミスによる影響が大きかった」(日本経済新聞 22年4月27日)
確かに、こちらの分析のほうがさまざまなことが合理的に説明できる。例えば、前回の値上げで客離れが起きたというのなら、なぜ22年の「319円への値上げ」によって深刻な客離れが起きていないのかが説明できない。18円の値上げで鳥貴族へ激しい憎悪を募らせていた「値上げ警察」ともいう人が今回はまったくスルーしていることも不可解だ。
一方、前回の客離れが、値上げなどではなく「カニバリ」や「出店戦略ミス」だとすればしっくりくる。鳥貴族が値上げをした17年というのは、「280円均一居酒屋」が乱立して、「鳥○○」のようなパクリ店まで出ていた時期だ。そんな時期に、商圏を意識しないでイケイケドンドンで出店すれば当然、客の奪い合いになるからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング