食に関して、1年間のうちに同じ番組で2度も大炎上が起きることは少ない。しかも、同じような状況が非難されるのも、あまり記憶にないことだ。
おそらく、立て続けに炎上事件が起きたのは、番組における、つくり手に対するリスペクトの不足ではなかろうか。この場合のつくり手とは、被評価者=商品を提供する企業の開発者、および、評価者=料理人やパティシエだ。
コンビニやファミリーレストランといったマスを客にする被評価者と、街場を中心とするローカルや食通を客にする料理人・パティシエといった評価者は、同じような食の開発者であるように感じられるが、実のところ、礎となる価値観や見えている風景は180度異なるといっていい。
それにもかかわらず、番組では全く異なる二者をセンシティブな場に放り込んだ上に、編集して切り取り、意図的により刺激的なシーンに仕上げている。つまり、全く性質が異なるつくり手の対立軸をあえて生み出しているように感じられるのだ。つくり手である被評価者と評価者のどちらに対しても、配慮が欠ける企画と演出を用いていると感じられてならない。
テレビは広告市場でインターネットの後塵を拝している。しかし、テレビはいまだに、最も影響力のある“最強のメディア”であることには違いない。大きな力をもつテレビ、しかも元日に放送されるような有名番組が、日本における重要な文化であり、今後期待される産業である食に対して、分断を図るようなコンテンツを制作していることは、はなはだ遺憾である。
ここまで、今年印象に残った食のニュースを紹介してきた。よいニュースもあれば、そうではないニュースもあった。全てがよいニュースになることは、おそらくないだろう。しかし、23年には、ひとつでも多くよいニュースが聞かれ、それに関する記事が書けるようなら欣幸(きんこう)だ。
グルメジャーナリスト。
1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ブッフェ、フレンチ、鉄板焼、ホテルグルメ、スイーツ、ワインをこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。料理コンクール審査員、講演、プロデュースも多数。
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