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なぜ「前例のないIPO」をしたのか ビジョナル末藤CFOが明かす裏側対談企画「CFOの意思」(2/3 ページ)

» 2023年01月20日 16時30分 公開

末藤: 予期していなかったことが立て続けに起きていましたね。しかもタイムラインが非常にタイトな中で。

 そもそも上場準備というものはシナリオどおりだったとしても、それ自体の負荷が高い上に、その中で予期しないことが起こり、それに一つ一つ対処していったチームメンバーは、とても大変だったと思います。

「今は利益最大化にはコミットできない」等身大の姿を伝え期待値を調整

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嶺井: 今までにないIPOを実現されてから1年半。グロース銘柄に対して、非常に強い逆風が吹いてる中でも株価は堅調に推移しています。どういったところが評価されていると思いますか。

末藤: 株価については、市場の需給の状況等によって決定されるものであるため、当社としては、投資家の皆様に支持して頂けるように引き続き企業価値の向上に努めていくのみと考えています。そのうえで、上場するときに意識したことは、背伸びをしすぎないということです。

 背伸びしようとすれば、いくらでもできます。でも上場はスタートラインでしかありません。そのような考えから、「等身大の自分たちでありたい」という思いがありました。

 私たちは「新しい可能性を、次々と。」というグループミッションを掲げているように、新規事業に投資を続けたいというのが企業としての意思です。つまり、継続的な売上成長にはコミットするものの、今は利益最大化にはコミットすることはできないということを、IPO時にきちんと伝えることが大切であると考えていました。最初からちゃんと自分たちの等身大の姿、考えを伝え、期待値を正しいところに調整したい。それが、市場からの評価に反映されているのではないかと思います。

 2つ目は、転職市場自体が構造的成長を続けて、それを捉えられているという事業環境もあると思います。さまざまな外部環境の変化はあるものの、即戦力採用ニーズの高さは継続しており、それが当社の事業成長を支えています。

嶺井: 上場後の1年半で大変だったことはありますか。

末藤: M&Aなど事業戦略上、行いたいことはたくさんあるものの、それをどのようなタイミングで行うかなど、非上場の時に比べて検討すべき事項が多くなりました。また、チームのリソースには限りがあるので、そこのバランスをどのように取っていくのか。

 また、上場企業は3カ月おきに決算の開示がありますが、事業は3カ月ごとではなく、もう少し長い目で成長を描いていますよね。ここをブリッジさせるのが、難しいなと感じています。

嶺井: 人や組織に関する大変さはありましたか。

末藤: 組織というところでいえば、上場したものの南の「スタートアップであり続けたい」という思いを形にするため、機動的に動ける体制を作り続けていくというのが大変ですね。具体的には、上場前にグループ経営体制へと組織変更しましたが、「変わり続ける事業を支援するために、どういうコーポレート機能の体制が良いのか」と日々、とても悩みますし、体制がどんどん変わっていくというのは、実態としては大変です。チャレンジするいい機会をいただいていると思っています。

嶺井: 南さんの高い期待に、チームメンバーの皆さんが応えている。それがあるからこその今の成長というところでしょうか。

末藤: 当社には何事においても「当たり前」が存在しないので、経営陣も「上場企業としての当たり前」を余裕で超えてきます(笑)。調整役というのがCFOの役割の1つだと思っているので、そこの調整は難しくもあり、その分新たな挑戦ができる環境ともいえますね。

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