「運輸連合」「交通税」とは何か 日本で定着させるために必要なこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/10 ページ)

» 2023年01月21日 08時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 このうち「山陰線WT」は12月7日に報告書をまとめた。毎日新聞の報道によると、山陰線の利用が少ない背景は以下の通り。

  1. 京阪神からの訪問者はクルマ利用が多い。京阪神以遠からの列車利用が少ない。
  2. 沿線の人口減少傾向によって、乗客数減少、列車の減便の悪循環となっている
  3. 沿岸や河川沿いに生活や経済活動の拠点があり、車に頼らざるを得ない。

【関連記事】JR山陰線 観光利用増をバネに 利用促進チームが報告書 /兵庫(22年12月9日の毎日新聞)

 私の感想は以下のようになる。

 1.について。城崎温泉まではカニの水揚げ時期に臨時列車が出るほどにぎわうけれど、城之崎以遠は観光訴求が弱い。他の地域からみると、京阪神の人々のカニ好きは独特の習慣のように思える。関東では特定の食材を求めて臨時列車がでるようなブームは起きない。関東のカニ好きも山陰へ旅行していたと思うけれど、北陸新幹線金沢延伸によって、JR東日本がカニと北陸の観光誘客に熱心だ。関東の客は北陸に奪われたかもしれない。

 2.について。乗客が少ないから減便する。減便したから乗車機会がない。ニワトリとタマゴのような関係になっている。乗客が増えれば増便は当然だ。しかし列車が増えれば乗客が増えるかというと、駅までの二次交通や低価格駐車場整備によるパークアンドライドがないと厳しい。

 3.について。クルマを持ってしまったら、列車で移動できるところもクルマで動く。これは当然のことである。クルマを持つ人は、燃料代と鉄道運賃を比較する。比較に当たりクルマの購入費用とメンテナンス費用は考慮しない。そうなると、鉄道運賃は高い。その金額が「自分で運転せず車内で休憩できる」対価として見合うかどうか。

 毎日新聞によると、厳しい状況のなか、乗客増の施策として列車とバスの競合関係を補完関係に再構築し、総合的な移動手段を構築するという。23年に実施予定のJRグループ「兵庫ディスティネーションキャンペーン」、25年の大阪・関西万博をきっかけとして山陰方面に誘客したい。数値目標として、各路線の平均通過人員を2000人/日とした。前出のように、山陰線は現在、606人、738人だから、利用者を2.7倍から3.3倍に増やす。具体的な目標として、城崎温泉の1日当たり乗車人数を1350人、香住駅は830人などと数値を示した。

 沿線住民の利用促進策として、ICカード乗車券や新型車両の導入、駅周辺の駐車場や駐輪場の整備、定期券の購入補助、駅周辺のイベント企画、列車やバスの体験乗車などを挙げている。観光誘客に力を入れ、温泉、カニ、余部鉄橋の観光資源を活用する。

 私の感想は「現状分析は的確のように見える。しかし利用促進策は目新しさがない」だ。ICカード乗車券はJR西日本の考え方と合致する。駅の無人化とワンマン運転のためにICカード乗車券は有効だ。新型車両は路線を維持するならいずれ必要になる。駐車場整備も既視感がある。イベント、体験乗車、観光誘客は、かつて多くの赤字ローカル線で失敗した「乗って残そう運動」の域を出ていない。

 いずれにしても、JR西日本単独で鉄道維持は難しいし、自治体の補助金投入にも限界がある。このままでは、鉄道を維持するために赤字を補てんし続ける覚悟が必要だ。その覚悟とは、例えば只見線災害復旧区間のように、上下分離して線路設備の費用を負担した上で、運行会社の赤字を補てんできるか、である。

鉄道ファンの名所「余部橋りょう」も兵庫県にある。旧橋のトラス部は一部残されて展望台に。エレベーターも設置された

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