「へぇ……目標未達なのに、有給取るんだ」 上司の一言はパワハラ?Q&A 社労士に聞く、現場のギモン(3/3 ページ)

» 2023年03月08日 05時00分 公開
[近藤留美ITmedia]
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部下からのパワハラもある

 「(1)優越的な関係」についても補足すると、パワハラは、上司が部下にするものと思われがちですが、実はそれだけではありません。先輩・後輩間や同僚間、さらには、部下から上司に対する言動もパワハラになり得る場合があり、注意が必要です。

 このため、「職場における優越的な関係」とは、必ずしも職務上の地位が上位ということに限りません。人間関係や専門知識、経験などさまざまな要因で生まれる「優位性」が含まれます。

 また、今回のケースでは、そもそも有休取得についても考えさせられる事案です。社員Aが発言しているように、有給休暇取得は労働者の権利です。有給の取得時期についても、「事業の正常な運営を妨げるような場合」を除き、労働者が好きな時期に理由を問わず取得することが可能です。目標未達という理由で有休を取得させなかったり、取得時期を変更させたりすることも労働基準法違反の可能性が高いと言えます。

 なお、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、例えば、年度末の業務繁忙期などに多数の労働者が一斉に有休取得を請求するなどしたために、請求した全員に休暇を与えるのが難しいような場合などに限定されています。

 単に忙しいからというだけで有休の取得時期を変更することさえ認められていないことから、目標未達を理由に有休を認めないように心理的圧迫を与えるのは、認められる行為ではないと考えられます。

 最後に、職場のパワハラについては、ハラスメントを防止するために会社は何を講じていたのか、あらかじめ相談窓口は設置されていたのか、残念なことにハラスメントが発生した場合には迅速かつ適切に対応したのかなども問われます。このため、ハラスメントに関する措置を義務付けている「労働施策総合推進法」や「パワハラ指針」の内容を確認しておくと良いでしょう。

 ハラスメントに限ったことではありませんが、起こってしまった際の事後対応については、スピード感と適正さが求められます。形だけの相談窓口とならないよう、相談窓口担当者に対する具体的な研修も実施しておきたいものです。

著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士

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大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。

平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラ等の相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。

現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。

顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。


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