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なぜ研修をいくらやっても「実のあるもの」にならないのか?ダメ研修を淘汰(3/3 ページ)

» 2023年03月20日 08時00分 公開
[楠本和矢ITmedia]
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(3)各メンバーに、意図を正しく伝える

 メンバーには、戦略に基づき棚卸したスキルがなぜ必要になるかをしっかり伝えることが大切です。「事業部として3年後にこのような成果や評価を獲得するために、こういった仕組みや体制を創り上げていく必要がある。だから、あなたにはその実現に向けて〇〇というスキルの取得・向上を期待している。それは、あなたのキャリアにとっても××という意味がある。そしてその機会として研修を提供する」と明示すれば理解を得やすいです。

 ただ、この段階では決定事項ではなく本人の意向確認を兼ねた「提案」として伝えるようにしましょう。本人の意向と異なる場合は要望をヒアリングし、調整することも必要です。ただ、事業部の戦略からあまりにも外れているとしたら、他の適任社員を探すのも手です。「そもそもスキルアップなんかしたくない」となれば、それも要望として受け止め、それなりのメンバーとして育成するのが良いでしょう。

 計画の7割くらいのメンバーが納得してくれたら御の字。それでも大きな一歩です。パーフェクトにこだわり過ぎても調整が大変ですし、翌年に戦略が変わる可能性もあります。柔軟性を持って対応できるよう、ある程度身軽な体制を構築しておくのが好ましいです。

メンバーに習得してほしいスキルを正しく伝えましょう

(4)スキルアップの方法を検討する

 スキルを高める方法はさまざまありますが、事業部主導で実行する場合のポイントや注意点を簡単にお伝えします。

 まずは、外部講師を招いた「研修」を企画するという方法です。前述の手順で高めるべきスキルが具体化されてくると、人事部が拾い切れていない研修やセミナーなどがたくさん見えてきます。マネジャー自身が、日常業務と並行して研修プログラムの情報収集や選定をするのは現実的ではありません。研修を受ける社員やチームメンバーに探させてみるのもいいですが、オリエンシートを元にエージェントに研修の情報収集とコンタクト、内容や講師評価を委託するのも手段の一つとして挙げられます。

 エージェントに委託するのであれば、オリエンシートの作りこみは必須になります。研修受講者、受講目的、受講後の仕上がりのイメージ(ゴール)、現在の課題感、分解したスキルテーマごとの希望など、受講者に合わせてカスタマイズすることが大前提です。毎回外部講師に依頼するのは工数がかかるということであれば、少々値は張りますが、自社で完結する研修用資材の作成を外部の専門企業に委託する方法もあります。

 そのほか外部セミナーに参加させるという方法もあります。オンライン研修もコロナ禍を機に定着し、多くの人が利用しています。ただし、玉石混交のため実用性は未知数な部分もあります。役に立たないと判断したら、支払い済みの受講料は気にせず、時間がもったいないので躊躇(ちゅうちょ)なくやめること。また、良い講座であれば、その講師に社内研修を依頼してみるのも良いでしょう。

 ここまで受け身な提案が多かったですが、能動的なアクションが求められる研修の場も有用です。例えば「講師をやらせてみる」のはどうでしょうか。当該スキルを習得してほしい社員に講師役を務めさせ、社内研修を開催するやり方です。そうすると、少なくとも本人は健全なるプレッシャーの中で、知識を体系的に整理し、分かりやすく伝えようとするでしょう。そのナレッジを蓄積/管理することで事業部内での学びの輪を広げていくことができます。

 社内で既に当該スキルが高いメンバーをゲストに招き、「学び方について学ぶ」という方法もあります。社内のメンバーが業務を通じて実際にそのスキルを会得しているとしたら、その方法は非常にリアリティがあるはずです。注意点としては、「スキルを教える講師」になってもらうのではなく、「スキルを習得する方法を学ぶ」ということです。負荷の大きい依頼は、引き受けてもらえない可能性もあることに加え、学ぶ側が依存的にもなり得ます。

講師をやらせてみるなど能動的な研修も効果が期待できます

 最後は自主学習です。もちろん、組織がある程度学びの機会を提供することは考えなければいけませんが、スキル習得のためには自発的に学ぶ必要があります。その際のポイントは、「学び方を考えさせる」ということです。自主学習において、これが下手な人が大変多い印象があります。闇雲に関連書籍を読みあさっても、業務で生きるスキルは育ちません。効率的・効果的に学ぶための「段取り」をまずは考えさえ、マネジャーとすり合わせた上で進めるべきです。

 以上が、事業部で人材育成を進めていくための手順概要になります。総括すると(1)部門の戦略/チームの戦略をクリアにすること、(2)その戦略を実現するために発生する新たな業務をリストにすること、(3)その業務を遂行するために、誰にどの様なスキルを具備させるかを顕在化すること、(4)そのスキルを高める研修の機会を広く検索することになります。

 変化の激しい時代の中で人材の強みを生かし、進化し続ける組織であるためのヒントになれば幸いです。

著者紹介:楠本和矢(くすもと・かずや)

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HR Design Lab. 代表。組織の「自律的変革」を促すコンサルタント。マーケティング視点に基づいた、実践的なHRソリューションを開発、提供。最近は、人的資本経営の指標設定、カルチャー創造、組織の創発力強化等の取組みに注力。また、ビジネストレーニング開発にも力を入れている。直近3年で、300回以上の企業内研修やセミナー・講演等を実施し、平均満足度は98%を超える。「一人一人の知恵や経験が存分に引き出され活用されている社会をつくること」が自身のミッション。主な著書に「トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口」(イーストプレス社/2020年)、会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション」(すばる舎/2019年)、「人と組織を効果的に動かす KPIマネジメント」(すばる舎/2017年)がある。


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