マーケティング・シンカ論

【後編】新規上場ハルメクの快進撃 爆売れの裏側にある、地道な作業と圧倒的データ量ハルメク編集長に聞く(1/2 ページ)

» 2023年03月31日 10時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

 3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場したハルメクホールディングス(新宿区)。5年前まで売上が低迷していた同社の柱事業、年間定期購読誌「ハルメク」を復調に導いた変革の歩みとは? 前編に引き続き、山岡朝子編集長への取材を通して同社独自のマーケティングに迫る。

読者属性を正確に把握できる強みを生かして

photo 山岡朝子さん(ハルメクホールディングス 取締役 ハルメク 執行役員・コンテンツ事業本部長 ハルメク編集部編集長)

 前編では、編集部とマーケティング部との分断を解消し、読者ニーズを反映した誌面作りを実現するまでのストーリーを紹介した。では具体的に、ハルメクではどのような手法をもって、「インサイトの深掘り」を行っているのか。背景には、定期購読誌ならではのデータ蓄積がある。まず、マーケティング活動の資源となるのが広告の効果測定データだ。

 ハルメクでは、購読申込の電話を自前のコールセンターで受けているが、その際CA(コールエージェント)が口頭で聞き取り調査を実施する。新聞、テレビCM、Webとある広告のうちどれを見たのか。新聞なら何新聞で、朝刊か夕刊か――といったタッチポイントを最初に聞き、該当する広告の中に記載されている特集タイトルの中で、どれにひかれて購読を申し込もうと思ったのかを挙げてもらう。この地道な作業を全ての購読申込者に対して電話で行い、アテンション(注目、関心)がどこにあるのか広告効果を測定する。

 これらのデータは、コールセンターから毎日、翌日にはマーケティング部に上がってくる。マーケティング部はそのデータを基にして、次回の広告制作を編集部と一緒に検討する。

 「広告内容は特集内容を把握している編集部と、アテンションを把握しているマーケティング部が話し合って決めています。編集部から特集に適したコピーを提案すると、マーケティング部が過去、アテンションが高かったキーワードや特集に関するデータを出し、それを基に編集部が再考する、といった具合です」(山岡さん)

 同時に編集部は、読者満足度データを資源に読者インサイトを探っている。ハルメクでは、シンクタンク主導で発行2週間後に読者へアンケートを郵送で送付する。郵送にしている理由は「バイアスの排除」だ。メールやWebアンケートにすればコストを減らすことができる。しかしそれでは「メールやWebで回答できる読者だけの意見」しか集まらず、データにバイアスがかかる。ハルメクはシニア向け媒体であるため、全ての読者が対応できる郵送アンケートが適しているとの判断だ。

 アンケートには、特集から小さな連載に至るまで、全てのページについて「読んだか読んでいないか」を、そして読んでいる場合は5段階評価をつけてもらい、返送してもらう。この集計結果を、読者満足度データとして蓄積する。

 そもそも「本を購入した人」を把握することは、一般的な雑誌では難しい。書店に配本したあとで、どこの誰が、どの特集を読みたくて買ったのか。実際にどのページを読んで、どう思ったのかを追跡することはできない。

 「読者属性を正確に把握できること、その上で意見を聞けることは、定期購読誌の大きな強みです。一般的に雑誌でアンケートを取る際は、プレゼントをつけて行動を促します。それでも、例えば化粧品なら美容意識の高い読者が、車や旅行なら子どもがいる読者が多く応募してくる――といったように、どこまでいっても集計できるデータにはバイアスがかかります」(山岡さん)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.