新幹線の自動運転 JR東日本、JR西日本、JR東海の考え方の違い杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)

» 2023年05月26日 12時47分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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共通点は「機械と人の役割分担を最適化する」

 JR東海は自動運転の導入に当たり、すべての駅に可動式ホーム柵を設置する。運転士は運転操縦の負担が減るぶん、車掌の業務だったドアの開閉、発着時の安全確認を実施する。また、列車乗務員の責任者として、車掌やパーサーを統括する。車掌は旅に不慣れなお客のサポート業務に注力し、巡回強化によってセキュリティを向上する。現在、警備会社に外注している車内巡回は車掌が行うから、コスト削減の要素は外注警備費かもしれない。

 ちなみに国鉄時代は「車掌」「旅客専務車掌」という役割分担があった。車掌はドアの扱いや非常ブレーキの操作など、主に機械を扱う安全管理業務があった。その後、特急列車など長距離列車できっぷの乗り越し精算、無札乗車や迷惑客の対応などの業務が増えたため「旅客専務車掌」としてサービス要員が分離された。

 企業人事としては「今後は運転士よりも車掌を採用しますよ」となり、「現在の運転士は今後、車掌に配置転換しますよ」となる。それは、機械のような仕事から人間を解放し、人間は人間らしさを生かせる仕事をするべきだ、という考え方だ。

 ただし「新幹線運転士」という職種はなくならない。自動運転路線とはいえ、バックアップ要員として運転免許を持った社員は必要になる。自動運転の路線といえば、19年の金沢シーサイドライン逆走事故のあと、原因究明と改善までの間は有人運転となった。免許を持つ社員を総動員して、通常時の65%の運行本数を確保している。本来は100%の運行本数としたいところだ。自動運転になっても、運転席はなくせない。

 JR東日本とJR西日本の自動運転は、無人運転を目指す。しかし、自動運転はJR東海のような「リアルタイムで運転曲線を描き直す」形になるだろう。すでに開発しているかもしれないし、これからの課題かもしれない。

 JR東海は「GoA2.0の28年導入」を表明した。28年に新製するN700S、あるいはその後継車種から自動運転システムを搭載する。無人運転については採用時期を明らかにしなかった。「次の研究課題とする」とのことだった。

 JR東日本とJR西日本、JR東海は、異なる目標と時期を掲げているけれども、実は同じ道をたどっているように見える。JR東日本、JR西日本、JR東海の3社が提携したら、完璧な新幹線自動運転システムができると思う。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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